第46話 国家反逆罪

 月は朝となり、地球は夜を迎えた。

 ドベルト銃を腰に、三百人もの反乱者が王宮に押し寄せた。彼らが掲げる宰相の追放と、王位を奪われた王妃らの王族復権を訴える民衆を前に、スザリノは、それが反乱ではないと心に留めた。エトリア王妃とルクナンと共にセライに連れられ、抜け道を使って王宮を出た。安全な場所から、預かった絵巻や巻物、日記、双六盤を胸に、朱鷺ときら地球よりの視察団の勝利を願う。

 エルヴァ率いる元衛兵ら百人が、精鋭揃いの鎧兵に、ドベルト銃で対抗する。敵の数は凡そ五百人。反乱者三百人の内、まともに戦えるのは元衛兵の百人程で、五倍の兵の数ではあるものの、それでも士気は下がらない。無念に散っていった仲間の為にも、王宮外の戦で負ける訳にはいかなかった。

 王宮内では、朱鷺がハクレイを探している。鎧兵らの攻撃を受けるも、銃と肉弾戦にて、安孫あそん水影みなかげが主を護る。ルーアンは朱鷺の隣に立って、何があっても離れないと誓っていた。

「そなたのことは、何があっても、俺が護ってみせる」

 そう朱鷺に微笑まれ、「うん!」とルーアンも頷いた。ハクレイは、王宮下が見渡せる最上階のテラスに、腰を落としていた。

「やあ、本当に国を覆すつもりなんだね、君達」

 悠長に話すハクレイが、安孫に目を向けた。

「君にはがっかりだよ、安孫君。君が主一人の命を奪わなかったことで、これから何百何千もの人々が死んでしまうんだから」

「左様なことにはなりませぬ。我らは、誰の命も奪いは致しませぬゆえ」

 朱鷺は反乱者に、宰相の兵を殺さず、生かすよう指示した。それが本当に叶うかは分からなかったが、エルヴァら反乱者を信じての言葉であった。

「そう、何とも慈悲深いね、地球人は。大々的に君達を処刑しようとする僕が、冷酷に見える程にね」

 ハクレイが不敵に笑った。ぐっと安孫が奥歯を噛み締める。その直後、八人の鎧兵が四人を取り囲んだ。ドベルト銃が一斉に朱鷺に向けられた。

都造みやこのつくりこさん!」

 地上から鎧兵と戦うセライが声を上げた。ハクレイが、地上で戦うすべての人々に呼び掛けた。

「よく聞きたまえ、国民諸君! 地球からお越し頂いた視察団三名は、月の国に燻っていた反乱の火種を膨張させ、あろうことか、国家転覆まで企てた。最早地球との国交は絶望的であり、両星間の友好も今ここに絶たれたのだ! よって、本日この場にて、彼らと、彼らに加担するルーアン元王女を、国家反逆罪により処刑する!」

 息を呑む朱鷺。安孫は懐のドベルト銃を握り、水影は反撃の一手を探る。その懐でうごめき始める白兎。ルーアンは、そっと朱鷺の手を繋いだ。それに驚きの表情を見せるも、朱鷺の顔に、諦めは見当たらない――。




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