第30話 遣月日記
『本日は朝より月が民との交流の為、王宮外の町にて、童らと
交流十七日目の記述。
『本日は我が主の目的に於ける進捗状況を調査する。王宮内の女官、女中、凡そ二十数名は、既に羽衣装束を常とする。王宮外に於いては、口伝えにその風貌の良しが広まり、月が世に一大旋風(ぶうむ)を巻き起こしている。単に我が主の功績が成すものであるが、肝心なすざりの王女殿下の羽衣装束姿は未だ露見せず、すべては恋仲であられるせらい殿が、我が主の悲願を邪魔立てされておるものと推測される。それでいて、一人王女殿下の羽衣装束姿を堪能されておいでゆえ、反吐が出る』
交流二十三日目の記述。
『本日は月が世の元王女であり、現在、我が主より天女中と渾名される、るうあん殿が、見目麗しい天女姿の女官殿を口説く主に、陰ながら嫉妬の表情を見せておいでであった。頬を膨らまし瞳を潤ませる御姿に、お気持ちをお伝えあれと助言するも、す、すきじゃないわよ、あんな女ったらし……と己が想いに蓋をされる複雑な女人心に、どうせ最後にはくっつくゆえ、さっさとやること済ませれば良いのにと、我が心中にて思う。主も主で、天女中は乳なしだからのう、と建前を仰られるも、本音では互いに好き合うておられる者同士の進まぬ恋路に、思わず反吐が出そうになった』
「水影殿、
「左様。日記の中でも、無き者として視ておりまするゆえ」
「先日は某の武勇を書いて下さると、仰られておりましたではございませぬか!」
「はあ? 大した御活躍など、されておられぬでしょう?」
「少しは御心開いて下さったと、思うておりましたのに!」
「私と貴殿は、主が
相変わらず水影は無表情で、ああ言えばこう言う仲に、安孫は大きく溜息を吐いた。
「……某の記載が省かれておるのは百歩譲って仕方ないとして、
「まいぶうむ、にございますれば」
「まい? ……良う分かりませぬが、貴殿が楽しそうで、何よりでございますな」
安孫に心中を言い当てられ、水影は思わず緩んだ表情を、咳払いと共に正した。
「それよりも、
水影の自室で、朝食以降姿を
「
「選定? ああ、もしや……」
安孫は嫌な予感がしてならない。懐で
「御察しの通りにございますよ。主上は今、酒池肉林にて侍らす、天女様選びの真っ最中にございます」
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