第31話 詐欺師
シュナイザーが死ぬまで、後たったの六日しかない。
スケジュール的には今日にでも行動を起こさないとマズいので、早速学園で呼びかけた仲間を集めてお茶会を開いている。
メンバーはローズマリー、レイチェル、テレーゼ、カタリナ、クラリッサ、マルグリットだ。
クラリッサ以外はいずれも実家が侯爵以上の高位貴族ばかり。
これで反乱勢力を立ち上げる事が出来ればかなりの影響力を持つ事が出来る。
問題点は全員が当主という立場にない事。だがその点に関してはこのクソゲー世界が有利に働く。
この世界の貴族令嬢は案外影響力が大きく、貴族家の当主は自分の娘をどこまで甘やかしつつも恥ずかしくない令嬢に育てる事が出来るのか、という文化がある。
はっきり言って超馬鹿なんだけど、そうでもなければマリーベルが次々と邪魔な者を始末出来るはずもない。
この世界の敵対ヒロインが碌でもない奴ばかりになってしまっているのはそう言った背景もあるからだ。
「マルグリット様、ダラス様の件はお気の毒でした。」
「いえ……。」
強がってはいるけどやはり元気がない。あんなカスみたいな男でもこうして想ってもらえるなんて幸せね。
「マルグリット様はダラス様の事を密かにお慕いしていらしたのでしょう? 私達でお力になれる事があればなんでもおっしゃって下さい。」
「え!? 意外ですね。」
「マルグリット様、それは本当ですの?」
「え、えぇ……。ありがとうございますテレーゼ様。でも何故その事を……。」
ナイスよテレーゼ。
話題を自然とそっちに持っていったわね。
「メルトリア様に教えて頂きました。」
「私は裁判の時の様子を見て確信致しました。」
「そう……ですか。はい、私は確かにダラスを好いておりました。領地が近い事もあり、いずれはダラスへ嫁ぐのだとばかり。」
へぇ?
そんなエピソードがあったんだ。もしかして、ゲームの隠し要素だったりしたのかしら?
「貴族家は親が婚約者を決めてしまうのが普通です。だから私はダラスへの想いを秘めておりました。」
「そうだったのですね。」
「えぇ。元凶のマリーベル様の処刑が決まった以上、私に出来る事はもうありません。大切な友人の為にひっそりと喪に服そうと思います。」
やっぱりね。
現段階では王家の闇を討った事で、誰もが王家そのものが残っている事に気付いていない。もしくは王家をどうこうしようという考え自体が浮かばないのね。
「お待ちください。元凶はマリーベルだとお思いでしょうが、実は違ったんです。」
「そっか。メルトリアの言う通りだわ。マリーベルは王家の闇であり、手を下した張本人でもある。でも、元凶と言われれば……。」
「王家だわ。」
ローズマリーもレイチェルも話が早くて助かるわね。少しヒントを出せばすぐに気付いてくれる。
「王家が元凶ならどうする事も……。」
やはり渋った。
マルグリットは想い人を殺された復讐心と今後の保身とを天秤にかけた結果、今回の件を呑み込もうとしている。
そうはさせないわよ?
「何をおっしゃるのですかマルグリット様。私共がいるでしょう?」
「そうよ。マルグリット様、私だって力になりますわ。当然レイチェルもそうでしょ?」
「えぇ勿論。安心して力を借りて下さいませ。」
ローズマリーもレイチェルも矢面に立つ事を嫌ったわね。
流れでマルグリットに旗印を押し付けようとしているのが手に取るように分かるわ。
「マルグリット様は生徒会長だって勤め上げたんです! 絶対に向いていると思います! ダラス様の無念を晴らすべきです!」
おぉ。クラリッサまで追従してくる。
この娘、少しおつむが足りないだけで案外気持ちの熱い人間なのかもしれない。卒業パーティーの時も率先して味方してくれたし。
「カタリナ様もそう思いますよね?」
「えぇ。私だって想い人をこんな形で失えば黙ってはいられないと思うわ。マルグリット様、私にも是非お力添えの機会を。」
良いわ良いわ。
これ、どう考えても断れない流れじゃん。ここで断ろうものなら、想い人を殺されても黙っている冷血な人間と思われてもおかしくない。
貴族令嬢としては保身を考る必要もあるんだけど、今の流れでノーと言えば非難の嵐に晒される危険がある。
それにしてもこの流れは酷い。実は皆マルグリットの事嫌いだったとか?
もはや苛めよね。
「あ、あの……でも、私はどうすれば良いのか……。」
「マルグリット様。安心なさって下さい。ここにいらっしゃる方は全員が貴女様の味方。きっと良き協力者、良き相談相手になってくれる事でしょう。」
テレーゼ。貴女が善意100%で言っているのは分かるけど、マルグリット的にはありがた迷惑みたいよ?
当然私もマルグリットの様子に気付かないフリして追い込みをかけてあげる。ついでにユリウスもめっちゃ下げてやろっと。
「マルグリット様……いえ、皆様もここだけの話に留めておいてもらいたいのですが……。」
勿体ぶるように前置きをし、私は更なるホラ話を始めた。
「ここ最近、ユリウス殿下が私にちょっかいをかけてきていたのはご存知の方もいらっしゃるかと思います。実はですね、ユリウス殿下も王家の闇をご存知だった節があるのです。」
全員が息を呑み、しんと辺りが静まり返る。
「今にして思えば、ユリウス殿下はダラス殺害の犯人をマリーベルだと決めつけていたんです。というよりも、確信していたようでした。」
「えぇ?」
「そうかしら?」
ローズマリーとレイチェルを誤魔化す為に少し頑張って嘘を捻り出さないといけないわね。
「二人とも忘れてる? ユリウス殿下は卒業パーティーの際、あり得ない行動を起していたわよね?」
「そうね。」
「あれは王族としてナシだったわ。」
王族がサンライズ学園の卒業パーティーを積極的にぶち壊すなどあり得ないにも程がある。
そこに付け入らせてもらうわ。
「ユリウス殿下は壇上に上がり、ダラス様殺害の罪でマリーベルを追い込もうとした。あの時点ではマルグリット様が持っていた手紙に関してユリウス殿下はご存知なかったのよ?」
「「あっ……。」」
納得したみたいね。
「第二王子ともあろう者が後先考えないなんてあり得ないわよ。となれば、ダラス様殺害の犯人をマリーベルだと最初から確信していた。そうでなければ辻褄が合わない。」
「確かにっ!」
「そうよね! 確信が無ければあんな事出来ないもの!」
うんうん。若い娘って素直で良いわよね。
「つまり、ユリウス殿下は王家の闇をご存知なの。マリーベルの実家が王家の闇であると知っていたからこそ卒業パーティーの場であんな事が出来たし、裁判の場では出さなかったけど、私やテレーゼ様とは別口の証拠も持っていたのかもしれないわ。」
「あり得ますね。」
「はい。十分考えられます。」
テレーゼとカタリナも更なる納得感を得られたみたい。
クラリッサは頭の上に疑問符が浮いているけど、可愛いものだと思っておきましょう。
「最終的に私が何を言いたいのか、ですけど…………ここで行動を起さなければ、第二第三のダラス様やジュリア様の立場に私達が立たされるかもしれないという事。はっきり言って、既に私達は一勢力を築いていると周囲から思われています。」
全員の肩がビクリと跳ねた。
「私達の中からは何人か死人が出るでしょうね。王家の闇を暴いてしまった私達は間違いなく煩わしい存在。暴いたのは主に私とテレーゼ様ですが、同じ派閥に属している全員が疎ましい存在と思われているでしょうから。」
「そ、そんな事を言われても私は怯みません!」
クラリッサったら、震えてるじゃないの。
かなり無理して場を盛り上げようとしてくれているのかしら? それとも単に友達思いなだけ?
「そうね。クラリッサの言う通りだわ。この場の全員が危険な立場にいるという事は理解出来ました。もう引き返せない所にいるという事も……。」
カタリナもクラリッサに追従した。二人は主従関係っぽい仲ではあるけど、元々普通に仲が良い。
さて、ここで最後の一押しでもしましょうか。
「申し訳ございません。私のせいで皆様を巻き込んでしまいました。」
私は全員に頭下げて謝罪した。
「良いのよ。メルトリアが色々と教えてくれなければ……私、レイチェル、テレーゼもかなり危険だったんだから。」
「そうね。ローズマリーの言う通り。きっとシュナイザー殿下の食い物にされていたわ。」
「えぇ。しかも王家の闇を暴く事が出来たのですから、これから先の犠牲者だって減らせたのです。間違いなくメルトリア様のお蔭です。」
「私はメルトリア様に突っかかって行って、しかもそれを許してもらった御恩があります! だから謝らないで下さい!」
「私もですね。クラリッサ同様、ローズマリー様やテレーゼ様のご実家、四大貴族家を敵に回しそうなところを許して頂きました。マルグリット様もそうでしょう? 私達が出来る事は、こうして全員で一丸となって協力体勢を築く事。生徒会長を務めた方に纏めてもらうのも理にかなっていると思いますわ。」
「そう……ですわね。はい、私はダラスの事もあります。未熟な私ではございますが、どうかよろしくお願いいたします。」
やった……婚約者同盟改め、対王家派閥がここに完成した。しかも先頭に立つのはマルグリット。
これで王の目を多少逸らす事が出来るわ。
それにしても皆私の嘘をすぐに信じるわよね。確かに状況的には辻褄が合うような嘘ばかり言ってきたけど……。
私って、もしかして詐欺師になれるんじゃないかしら?
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