【第十四話】こんな人いるんだ?:春野千春.txt
愛の奴が帰ってこない。
愛は面倒だからとバイトも何もしてないのに。
一応同棲をするにあたり、部屋代、水道代や電気代を含めて、それは愛が、それ以外の出費は全部私が、という取り決めで同棲してはいるんだけど。
とはいっても、部屋代等は愛の親が払ってんだけどね。
私が元住んでいたワンルームは二人じゃ狭すぎるし。
そういう意味じゃ、このアパート、学生が住むには広い部屋なのよね。壁は薄いみたいだけど!
愛も冬至君も実家が太いからな。
庶民は私だけかよ。
って、今はそんな事どうでもよくて。
先に帰っているはずの愛が部屋にいない。
嫌な予感しかしない。
冬至君を交えての行為を断ったから?
あ、あり得る…… 愛なら十分にあり得る……
トントントン、とアパートの階段を登る音がして、そして、その音が部屋の前で止まった。
愛? もしかしてそこで証拠隠滅でもしてる?
そう思った私は玄関のドアを開けた。
そこにいたのは、美人だった。
ものすごい美人だった。
驚いた。
えっ? こんな人いるんだ? と素直に思っちゃった。
何て言うか、しばらく見とれちゃうくらいの美人だった。
人形にしてはなまめかしく、人というには完成されすぎている。そんな人だった。
「あ…… もしかして、おはぎの人ですか?」
呆然と見とれていた私から出た声はそれが精いっぱいだった。
愛が美人と言ってた意味が理解できる。
これは美人だ。
確かに一見の価値のある美人だ。もはや芸術品だ。
愛もすごい美人だけど、おはぎの人はレベルが違う。
この人は本物だ!
あっ、いや、愛が偽物って言いたいわけじゃないよ。偽物なのは私だけだよ。
「え? あっ、はい! そうです! おはぎの人です! 食べてくれたんですか?」
おはぎの人、いいえ、おはぎの君はそう言って笑ってくれた。
なに、この人、笑顔が反則級にかわいい!!
こんな人、本当に実在するの?
私、今、夢見てない?
しかも、こんな目の覚めるような美人なのに、すごく性格も良さそうな人じゃない?
「う、うん、すごくおいしかったです」
結局愛がほとんど食べて、私は一口しか食べれなかったけど。
あのおはぎはおいしかった。
餡子にうるさい私が言うんだから相当だよ!
なのに、愛の奴がバクバク食べちゃうし。
「良かった! また作ったら貰ってくれますか?」
「もちろん! ほとんど愛に食べられちゃったから…… 今度はしっかり味わいたい! 私、餡子大好きで!」
おはぎの君! 何ていい人なの!?
「おいしいですよね、餡子! あっ、すいません、名乗らずに。秋葉って言います。ば、ではなく、は! です!」
「私は春野って言います、よろしくね」
ああ、おはぎの君は礼儀まで正しい、なんて人!
こんな人がいるだなんて、やるじゃん、世界!
「はい、よろしくです! えっと、あれ? 一夏さんじゃないんですね」
そう言っておはぎの君は部屋の表札を確認した。
「あっ、えっと、一緒に暮らしていて……」
同棲というか、恋人同士とは……
こ、この人には言えない。
こ、こんな美しい人に対して、なんか失礼って感じがする!
「なるほど! もしかして折節大学の方ですか?」
「うん、二年生です」
ということは、おはぎの君も折節大なのかな?
「あっ、じゃあ、先輩ですね! よろしくお願いします」
やっぱりか。学科はどこだろう?
うちのサークルに…… は近づけちゃダメなタイプの子よね?
うちのサークルなんかにかかわらず、おはぎの君には細々と清楚に暮らしていてほしい!
ぶっちゃけ、うちのサークルはやり目のサークルだしね。
「こちらこそ! あっ、もしかして愛、ああ、一夏に用ですか? すいません、なんか長々と話しちゃって。一夏はまだ帰ってなくて」
うちの玄関の前に居たってことはそうなのよね?
既に愛の魔の手が?
だったら、私がいるときに呼ばないか?
「え!? いえ、あっ…… えっと、うーん…… どちらかというと冬至さんが心配で……」
「冬至君の知り合いなんですか? あっ、そか隣に住んでるんでしたっけ?」
は? なんで冬至君の名が?
隣に住んでいるとしても親しげじゃない?。
んん? というか、おはぎの君と冬至君が知り合い、なの?
え? 嘘でしょう? なんで冬至君と?
「はい! 今日、一緒に帰っていたんですが、えっと……」
「へ? 一緒に?」
え、えぇ? 本当に冬至君と?
ちょっ、ちょっと待って、今ちょっとだけ、私、悔しがった?
どっちに対して? おはぎの君? それとも冬至君に?
あ、あれ? わ、私……
「はい! 仲良くなりたいので」
「な、仲良く……?」
おはぎの君が冬至君と仲良くなりたい?
え? えーと、ちょっと待って、急に、胸がちょっと苦しいんだけど?
嘘でしょう? 私も冬至君のこと好きだった? とか?
いや、確かに嫌いじゃなかったけど……
「あっ、よかった! 無事だったみたいです! むこうに冬至さんが見えました!」
おはぎの君!?
なんで、冬至君が来てそんな嬉しそうな顔を!?
う、嘘でしょう? こんな美人が冬至君を好きに?
も、もしかして、私の見る目がなかっただけで、冬至君って素敵な人だった…… とか?
い、いや、それは…… 少なくとも私には魅力的な人じゃないよね?
と、ともかく今は冬至君に会わないほうがいい!
そんな気がする!
「え? あっ、えっと、あの、用事があるので、ま、また!」
「はい! おはぎまた貰ってください!」
ああっ、それにしても、おはぎの君! 去り際の笑顔も何て素敵なの!!
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