【第十三話】なんなんだ、なんなんだ、アイツは!:冬至唯中.txt
その日、俺は秋葉さんと偶然帰りに大学の校門で会い、挨拶した後、帰りなら一緒に帰りませんか? と、秋葉さんから誘われた。
悪い気はしない。
秋葉さんはものすごい美人だから。
学籍番号が近いから、という理由で友達になった奴らに明日、根掘り葉掘り聞かれるかもしれない。
それくらいは秋葉さんは美人で有名だったりする。
学科が違うのに、その名が噂で流れてくるくらいには大学で有名だよ。
ただ美人だとは思うけど、俺にはそれ以上の感情はなかった。
改めて、俺は千春のことが、まだ好きなんだとそう実感できたよ。
そのことが俺は少し誇らしいとさえ思えたよ。
だって、ふつうはこんな美人と帰れたら嬉しい物だろ?
俺はどっちかというと、千春に見られたらどうしよう、という心配のほうが強かった。
まあ、千春は…… 見ても何も思わないのかもそれないけど……
それでも、そういう心配をしてしまうくらい、俺の頭の中は未だに千春のことでいっぱいだった。
それは今でも変わらないんだ。
千春は俺のすべてなんだ。
いや、毎晩千春の声を聴いているからでは断じてない…… とは言い切れないけど。
あれほど下品と思っていた声すら、千春の物と思うと愛おしく思えてしまう。
俺はやっぱり千春が、千春だけが好きなんだ。
そんなことを考えながら、秋葉さんとの会話は上の空で帰っていたら……
アイツが、あの一夏とかいう女が、帰り道の途中にあるラブホテルから出て来た。
瞬間、アイツと目が合う。
問題なのは、隣にいる相手が千春じゃないことだ。
なんか世紀末か、と思うような風貌の男と腕を絡ませて出て来たんだ。
なんなんだ、なんなんだ、アイツは!
千春が毎晩あんな声を上げる様になったのも、アイツのせいなんだ。
それなのにアイツは浮気……?
アイツ、千春がいるのに浮気するのか?
なんでだ? どうしてだ?
なんでそんなことができるんだ?
理解ができない。
とりあえず、秋葉さんを巻き込むわけには行かないで先に帰っていてもらおう。
あんな世紀末風の男に巻き込まれでもしたら、秋葉さんがかわいそうだ。
手短に秋葉さんにそう伝えて先に帰ってもらう。
その後で、俺はあの女を強く睨んだ。
そこで、世紀末風の男も俺に気づく。
顔をしかめて、アイツを残してこちらにやってくる。
「何見てんだ!」
ドスの利いた声を浴びせられて、正直、俺はビビッてしまう。
一瞬、引けない、と思いはしたけれども、別にアイツが浮気しようがしまいが俺には関係のないことだ。
ここでこんな奴に絡まれる通りはない。
俺も秋葉さんと一緒に早々とここを去ってしまうべきだった。
「別に」
と、そう言い残してその場を後にする。
世紀末風の男も追ってきたりはしない。
恥ずかしいけど、俺は帰り道は何度も後ろを振り返ってしまった。
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