その週は張り切って火水木金曜と4日お弁当を作った。


 金曜の仕事終わり、三ノ宮さんからお弁当箱を返してもらう私のその手に水族館のチケットが乗る。


「え?」

「お弁当のお礼」

「でも……」


 困った。嬉しいけど、もらっても良いのだろうか。それにそもそも行く時間があるだろうか。


「明日の15時に入口で待ち合わせ。オッケー?」

「え……?」


 土日は実家に帰るつもりで、今晩の夜行バスも取ってある。

 でもこのお誘いは三ノ宮さんと二人で水族館に行くということ? 

 それなら断りたくない。


 最後の思い出に、一緒に行きたいという欲が強くなる。


 今週末は仕事で帰れなくなったと父に嘘の連絡をすればいいじゃないかと心の悪魔が囁く。


「もしかして都合悪かった? ごめんね」


 三ノ宮さんに謝らせてしまったという罪悪感に私は両手をぶんぶんと振った。


「違います、違います、違います! あの、嬉しくて……ちょっとびっくりして」

「ほんと? 大丈夫? 都合悪くない?」


 おばあちゃんお父さんごめんなさい、と心の中で謝りながら、「大丈夫です」と三ノ宮さんに伝える。


「じゃあ明日15時にね」

「はい。15時に入口ですね」


 これはきっと田舎に帰る前の最後のご褒美なのだとそう受け取ることにして、チケットは記念に写真を撮った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る