⑭
翌朝10時過ぎ。
父が畑から帰って来た。
食パンを焼く横で日野のじいちゃんの玉子をフライパンで焼く。オレンジの黄身にゆっくり火が通っていく。
父の畑で取れたレタスを洗ってちぎり、お皿に盛る。
こんがり焼けた食パンにマーガリンをぬって、その横に目玉焼きを添えれば、母が作っていた手抜き朝食の出来上がりだ。
表情を変えない父が食卓につく。
私はそれを横目にお盆にのせた朝食を祖母の部屋に運んだ。
「おばあちゃんご飯だよ」
ゆっくりと身を起こす祖母を手伝い小さなテーブルをセッティングする。
「あら? 目玉焼き? 久しぶりだわね〜」
「日野商店のじいちゃんの玉子だって」
「いただきます」
祖母は目玉焼きに箸を入れる。
「日野さんのお孫さんは、同級生だったかねえ?」
「うん」
「あの子もまだ結婚してないんよ」
それは私もまだ結婚してないと言っているように聞こえる。
「何歳になったん?」
「27」
「あら、まあ。ばあちゃんがその歳の頃はお父さんを産んで、お父さんが5歳になっとったね」
「そうだね……」
この手の話しは耳にタコが出来るほど聞いてきた。そしてこの次はひ孫を見なければ死ねないになるのだ。
「ばあちゃんもね、ひ孫が見たいわよ。あら、そうだわ! 日野さんのお孫さんと結婚したらいいじゃないの」
「おばあちゃん……」
日野にだって結婚相手を選ぶ権利はある。なのに、残り物同士で結婚しなさいと言われているように聞こえてしまい気分が悪くなる。
その一方で私は頭の片隅に三ノ宮さんを浮かべた。
だがこの田舎に、洗練された三ノ宮さんはちっとも似合わない。
田舎に似合うのは手を泥だらけにして無邪気に笑う日野みたいなやつだ。
「あら? 好きな人でもいるの?」
「え?」
顔に出てしまったのだろうか?
いや、顔に出るはずがない。社内であっても誰も私の気持ちに気づいていないのだから。
「付き合ってるの?」
「…………」
「結婚は考えてないの?」
「…………」
「そうなの、残念ね」
何も言えない私の瞳から祖母は見事に読み取った。
そして胸を押さえると、細く息を吐き出す。
「おばあちゃん? 胸が痛いの?」
「……痛いわよ。ああ痛い」
祖母はしかめっ面を解いて茶目っ気のある表情をする。
そして小さく「ひ孫早めにお願いね」とこぼした。
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