第26話 堕ちた天才

 勉強も運動も芸術も人並み以下だったが、王城帝にはゲームの才能があった。

 オンラインを主戦場に活動していた帝は、勝率八割を越え、三ヶ月でレート十万代を突破した。それから二ヶ月後にはプロデビューし、帝王ミカドとして国内ランキング八位に上り詰める。過去作未経験にも関わらず異例の速さであった。現在でもミカドより速くプロ入りしたものはいない。彼のゲームセンスは頭抜けていた。だが、帝は国内トッププレイヤーにはなれなかった。

 国内三強や律に阻まれ、帝は大規模大会で一度も優勝経験がなかったのだ。


 ――勝てねぇ……。何なんだこいつは……。


 期待のプロであった帝は初出場のリボルトで紗音に惨敗し、初めて挫折を覚えた。

 帝も敗北の経験はある。だが、全く勝てる気がしない相手は紗音が初めてであった。

 紗音と再戦する機会は何度もあったが、戦えば戦うほど差が広がっていった。


 ――つまらない。君には期待していたけど、所詮は有象無象のプレイヤーと同じだね。僕に勝とうという気迫がまるで感じられない。

 ――お前みたいな化物に勝てるわけがねぇだろ……。


 紗音との七度目の対決は帝の敗北に終わった。紗音は心が折れた敗者に失望しきっていた。

 

 ――帝王ミカドには期待していたけど、何かイマイチだよなぁ。

 ――強くても格上には順当に負けるからな。

 ――所詮はオンライン出身のプレイヤーだわ。

 ――ミカドも生まれた時代が違えばトップになれたんだろうが……。


 プロデビュー当初ーー天才プレイヤーとして帝は周囲から期待されていたが、大会では大きな実績を得られなかった。

 優勝できた大会も自分より上位の選手が出場していない大会だけ。数少ない優勝も観衆からは雑魚狩りだと叩かれた。


 ――プレイヤーですらない雑魚共が好き勝手言いやがって。だったら、こっちも好きにさせてもらうぜ。

 

 勝てない天才は上位の壁に屈して国内最強の夢を諦める。だが、満たされていない帝は歪んだ自尊心を膨らませていく。


 ――ゲーマー特権法! 最高のルールじゃねえか! 俺の生まれた時代にこのルールがあることに感謝するぜ!


 決闘制度で奴隷を増やしていき、帝は傷ついたプライドを満たすために己の才能を使い続けるのだった。大会や決闘で得た賞金を使い、ヤクザやギャングすらも味方につけ、墜ちた天才はますます邪道に染まっていった。


 

 


 玉座の付いた豪奢な御輿を、男女の集団が汗を流しながら担ぐ。彼らの年齢は十代から三十代とバラバラだが、共通して黒色の首輪を身につけていた。


「おい。もっと早く動けよ奴隷共。俺様の試合に間に合わないだろうが」


 玉座に座っているのは、中世の貴族を連想させる煌びやかな衣装に身を包んだ黒髪の少年だ。彼は金の刺繍が入った黒いスーツとズボンに身を包んでいる。頭上には宝石の付いた王冠が輝いており、背中には赤いマントを羽織っていた。

 王城帝は玉座の上で、名前通り帝王の如く君臨していた。

 奴隷として扱われている人々は帝の命令に従う。 

 彼らは帝との決闘に敗れた人々で、敗北の代償に人権を剥奪されていた。

 彼らの中には強引に決闘をさせられたものもいる。帝のバックにはギャングがいるため一方的な申し込みを断れなかったのだ。


「ちっ。役に立たない奴隷共だな。死にたいのか?」


 帝はその気になれば彼らをすぐに殺すことができる。彼らが帝に装着させられた首輪は、帝があるキーワードを宣言すれば即座に爆発するのだ。


「ひぃっ……! こ、殺さないでっ……!」

 

 帝に脅された奴隷達は、御輿を担ぎながら必死に進む。


「ははっ。見直したぜ。お前ら、やればできるじゃねえか」


 御輿のスピードが上がると、ミカドは帝とらしく拍手する。


「おい、俺様の対戦相手は誰だ? 三秒以内に答えやがれ」 


「……最強神です」


 黒髪の少女が暴君の質問に答える。


「あのオワコン野郎か。あいつも俺様の奴隷に加えてやるか」


 もうすぐ試合が始まるが、帝は最強神と戦う前から勝利を確信していた。  

 

(あいつは俺様ですら勝てないアルフィスやりっちゃんのいる大会で、本気で優勝する気でいやがる。ムカつく野郎だ)


 アンダードッグである最強神の躍進に帝は苛立ちを覚える。

 自分が諦めた「世界最強プレイヤーの夢」を格下のプレイヤーが諦めていない。


(二度と下らない夢を見れないように、俺様がぶっ潰してやる)


 暴虐の限りを尽くす帝王は、最強神に照準を定める。

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