第62話 運命
「お待たせ! 結構待ったかな」
そう言って勢い出てきたヒメカは白色のロングスカート、白色のカーディガン、首元には赤色のマフラーを巻いていて、手元には黒色のロングコート、手首には青色のミサンガをしていた。
元々ヒメカが美人なのは知っていたが、大人っぽさが今日は増していて目を奪われる。
と同時に、前回もこんなファッションをしていたのかなと考えてしまった。
…………今日こそはと気持ちが入る。もう、二度とあんな思いはしたくない。
「ハジメ、どうしたの? やけに真剣な顔をしてるし」
ヒメカは少し不安そうに俺を見ていた。
やばい、その表情も可愛くて俺はつい目を逸らしてしまった。
「いや、ちょっと考え事してて」
「ふーん。でも、何で目を逸らすの?」
ヒメカの声のトーンが一つ落ちた。
顔を見れていないから分からないけど、きっと落ち込んでいる表情をしているのだと思う。
これはあまり良くないことだな。
ここはちゃんと男を見せないと。
「あ……あれだよ。ヒメカがか……可愛くてつい」
男見せるとか決めていたのに結局、顔を隠しながら言うのが精一杯だった。
でも、少しヒメカの様子が気になり見てみると、ヒメカの顔は気持ち赤くなっていたように見えた。
「あ……ありがとう」
ヒメカはそう言った。
それから、俺達は何も動かず、何も話さない時間が五分くらい続いた。
「い……行こうか」
俺は沈黙に耐えられずそう言った。
ヒメカは何も言わずに首を縦に小さく振った。
俺とヒメカは駅に向かい、そこから、今日の目的地である映画館に向かった。
今のところ車通りが多いところを通ったりはしたが、特に問題はなさそう。
このまま18時まで過ぎてくれればと願っていた。
映画は前からヒメカが見たいと言っていた遠距離恋愛映画。
主人公と彼女が何度も家族の事情などのどうしようもない障害物を超えて、最後には結ばれるという内容。
ふと今の俺にも少し被るような気がしていて、胸が熱くなった。
隣にいるヒメカの表情は暗くてよく見えないが、何度も目の近くをハンカチで拭いていた。
「面白かったね!」
ヒメカは映画館からの真っ赤なカーペットを歩いてる時にそう言った。
「ああ。いい映画だった」
「ハジメ、泣いてる?」
「泣いてない」
「でも、目はウルウルしてるね」
「それはヒメカもだろ?」
「へへ。バレたかー」
ヒメカは少し赤くなった目で前を見ていた。
現在、14時。
後、4時間か。
そういえば、映画を見ながらキャラメルポップコーンを食べてはいたが、昼飯はまだ食べてなかったな。
俺達はどこか昼食を食べれそうなお店を探すと、映画館を出て横断歩道を渡った所にファミレスがあったので、そこに向かうことにした。
社会人だったら、おしゃれなフレンチとかいけるのだろうけど、仕方ない(あまり外を歩かせたくないのもある)。
丁度いい温度に調整されていた映画館から出るとやはりひんやりとした空気が流れていて、体が凍りつくような感覚を覚えた。
隣にいるヒメカも寒そうにしていた。
「手、頂戴」
俺は言った。
ヒメカは一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔に戻り、俺に彼女の右手を預けてくれた。
全てがうまくいっている。
このままあのファミレスに入って時間を潰せば成功だ。
ゆっくり歩いていたとはいえ、近くだったから、すぐに最後の横断歩道まで辿り着いた。
ここさえ渡れば……。
そう思いながら、青信号になるのを待っていた時、自分の右の方から悲鳴のようなものが聞こえてきた。
ふと気になり右を見ると、大型トラックが歩道を乗り上げて俺達に向かってくる。
…………そして、俺とヒメカは目の前の信号が青になるのを見ることができなかった。
……………………永遠に。
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