『じゅうでんしんじ』 その5


 『ありまあ。この方は、神官さまではないかあ!』


 たしかに、お顔に見覚えがある。


 ひなこさんの母うえであり、妖術使いである。


 また、絶世の美人を超越する、隔世の美人である。


 『な、なんでまたあ。』


 そこに、大きな音に驚いた、ひなこさんの双子の姉である、みなこさんが飛んできたのである。


 『やはり、落雷でしたかあ。』


 ぼくには、弁解のしようがない。


 『あなたさまは、ダイジョブでしたか?』


 『はい。なぜだか。』


 『それは、よかった。天のご加護ですね。』


 『おふたりを、その縁側に休ませましょう。』


 ぼくと、みなこさんは、ふたりをお堂の縁に横にした。


 まもるちゃんがささやくのだ。


 『ふたりの身体を精細に検討した上放電しました。五分で目覚めます。身体に問題はありません。逃げるなら今ですよ。』


 まだ、空には怪しい雲が流れて、ごろごろと言ってはいたものの、次第に遠ざかりつつあった。ちょうどまもるちゃんが放電した時間に、ざっと降った雨も収まった。


 しかし、逃げるわけにも行くまい。困ったまもるちゃんである。


 『母は、あなたをお迎えに参りました。しかし、『じゅうでんしんじ』のしきたりにより、この、すがたなのです。お騒がせしましたか?』


 『いや。あの。びっくしは、しました。もしかして、天岩戸伝説に連なるとか。』


 『まあ、そこまで古くはないはずですが、この神事は、いわば、門外不出。妹から説明は?』


 『まだ、しておりませんよ。』


 ひなこさんが、起き上がった。


 『雷ですね。ここは、良く落ちるのです。しんちゃんは、無事でしたか?』


 『だいじょうぶみたいね。おふたりも、ざっと見は、お身体には異常がみられない。』


 神官さまも、直に起き上がったのである。


 ぼくは、真実を話せる状態では無くなってしまったのであった。



      🙈🙊🙉


      


 


 


 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る