『じゅうでんしんじ』 その2
ぼくは、ことしの祭りも、当然に、出るつもりはなかったのだ。
しかし、31日の昼過ぎに、なんと、幼馴染みの、ひなこさんが尋ねてきた。
村一番の美人といわれるが、じつは、『隠れ巫女さま』であり、予知能力があると言われている。
『隠れ巫女さま』というのは、要するに、定例以外の、なにか特別な祭りなどの祭式のときにだけ、巫女さまをする、アマチュアの巫女さまのことである。
ただし、ひなこさんが、迎えに来るというのは、村にあっては、ものすごく、格調高い事なのである。
彼女の双子の姉様は、プロの巫女さまであり、村外れにある『大神宮』を離れることはない。
姉様も、万能の巫女さまでは、あるのだが、じつは、ここ一番、というときの爆発的な能力は、ひなこさんのほうが、はるかに強いとされる。ただし、当たり外れが大きく、まあ、つまり、あまり当てにならないと、普段は言われているのだ。
特大の嵐や災害のときに、姉様では手に余るような場合には、まさに、神頼みで引っ張り出されるくらいである。
しかし、かつて、なぞの『カクユウゴウ台風』のときに、どこに逃げたら良いかを、びしっ、と当てて、多数の村人を救ったし、あの『たらいぬけ地震』を、半日前に予知したりして、一躍有名になったのである。
姉様は、その際には、錯綜するイメージに、ただ、混乱するばかりであった。
そのひなこさんが、祭りに誘いに来たのだ。
これは、つまり、ただ事ではないと、ぼくは悟ったのである。
ついに、ついに。
ついに、来るべきときは来たのだと思ったが、それは、特別な能力によるのではなく、単なる推測である。
村人の正装は、和服だが、ぼくの場合には、スーツであったから、いっちょうらの、ちょっとお腹がきつくなってはいたが、グレーのスーツを、久しぶりに着込んだのである。
ネクタイの締めたかを、なかなか、思い出さなかったりしたが。
そうして、秘伝の『護身用具』を裏ポケットに潜めたのである。
🔫?
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