『ふのうりょくしゃの、じゅうでんしんじ』
やましん(テンパー)
『じゅうでんしんじ』 その1
わがむらさには、『じゅうでんしんじ』という、ふるーい伝統的な祭りがある。
300年くらいむかしには、始まったらしいが、その由来や、なんのために祭りをするのかなど、まるで、なにも分かってはいない。
祭りは、毎年、12月31日の晩に、村人が集まり、執り行われる。
村人以外が参加することは、禁止されている。ただし、わが村と、となり村以外に人がいるという形跡は、いまだに、ない。
忍び込んでくることがあるのは、となり村の、かわら版記者さんである。だから、村には祭りの警備専門の一団があるが、それが誰なのかは、安全上の秘密である。
万が一見つけたら、袋に詰めて放逐することになってはいるが、実際は、丁寧にお断りして、お酒とお土産を渡し、帰っていただく。毎年、律儀にやってくるので、同じことの繰り返しなのであり、つまり、これまた、恒例化しているわけである。
🍶
さて、ぼくは、村人なのかどうかは、相当に怪しいところである。
というのも、ぼくの自宅は、村からは5キロほど離れた、小さな山の頂きにある。
古い行政区画からしたら、30キロばかり離れた、反対側の町に属していたらしい。
しかし、町は、核戦争のときに、無くなってしまった。
我が家は、となりの高い山に遮られていたので、無事だったらしい。
村もそうである。
なので、行き掛かり上、村にお世話になっている。
早い話し、件のお祭りには、関わりたくはないのである。
あまりに、妖しいからだ。
しかし、むげに断れる立場ではないのは、明確である。
両親は、穏やかな人達で、村人とも細やかにお付き合いを、していたようだ。
しかし、ぼくは、病弱で、外に出ることは、少なかったのである。無能力者であり、身体も弱いので、なんの仕事もできず、嫁さんの来てもなかった。
それが、両親が相次いで、急に亡くなり、一人になってしまった。
まあ、いつかは来ることではあったのだ。
我が家には、巨大な自動食品農場工場が付属しており、AIロボットさんたちが、さまざまな、野菜などを作っていた。
原動力は、超高性能太陽光発電装置である。曇りでも、十分な発電が可能であった。
それは、AIロボットさんたちにより、厳重に管理されている。
ぼくが手を出すことはなにもないが、所有権は我が家にあった。
生産物は、当然、村に運ばれてゆく。
ぼくの面倒は、AIロボットさんがしてくれるから、特に村にお世話になることもないのだが、なにしろ、AIさんに指令を出す権限は、ぼくにしかないし、たしかに、一定の対価は必要でもある。また、みな、そう、思う。
だから、村長さんたちは、つまり、ぼくのいなくなった後について、深く考えていたわけである。
そして、今年も、12月31日になったのである。
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