第16話

(いよいよ、冒険の始まりだわ)


 道具屋に向かう前、冒険者ギルドでカサンドラ達が受けたクエストは、ギルド付近にあるロロの森で取れる『ミーン薬草を十束採取する』クエスト。

 

 アオ君はカサンドラ達よりもレベルが高いため、レベル補正がかかり、貰える経験値が少ないらしい。


『アオ君、いいの?』

『あぁ、このまま採取クエストを受理してください』


『かしこまりました』


 採取のクエストを受けて、街の道具屋に向かった。


 

 カランコロンと、ドアに付けられた真鍮のベルが鳴る。今、カサンドラ達が訪れた道具屋は木造作りで、店の中は冒険者が使用する道具で溢れていた。


「初めて見るものばかりね、シュシュ、何を買いましょう」

 

「どれも面白そうで、迷います」


 大きな盾、長剣、短剣、冒険者の服と、目移りするカサンドラとシュシュにアオは詳しく教えてくれた。


「服は、この革製のジャケットの中に布製のシャツを着て、下はスラックスと靴下、革製のブーツでどうだ?」


「まぁ、素敵。今、アオ君の選んだ服は乗馬服に似ていますわね。それでお願いします」


「私はドラお嬢様と、色違いがいいです」

 

「ハハッ、わかった」

 

 カサンドラとシュシュの冒険での服は決まり。次は、もしものために、自分を守る武器を選ぶことにした。目についた見た目のよい長剣を選んでアオ君に見せても、強そうなハンマーを持っても全て却下だった。


「アオ君、全てダメって、どれがいいんですの? 私これでも屋敷の騎士と、剣の特訓を数ヶ月いたしましたわ」


「それって基礎だろう? ……うーん、そうだな……今、カサンドラが手に持っている長剣も、何年もの訓練と実践を積まないと扱えない。慣れていないと、とっさのときモンスターと戦えないし、ケガをする」


「とっさに戦えなくて、ケガをする? では、私達はどんな武器を持てばいいのかしら?」


「そうだな、二人は小型のナイフがいいんじゃないかな。野宿で薪を使って火をおこすとき、倒したモンスターの解体、料理をするときに使える――小型ナイフは多機能だ」


「多機能? では私は鞘に青い石がついた、このナイフにしますわ。シュシュは隣の赤い石のナイフで、アオ君は緑の石のナイフね」


「ドラお嬢様、ありがとうございます」

「俺もいいのか? ありがとう」


 アオ君が選んだ服を買い、カサンドラ達は店の試着室で着替えた。次に必要な回復薬、傷薬、解毒草を選び、それを入れる肩掛けカバンと小型のナイフを買い。ナイフは腰のベルトに留めた。


 準備を終えて道具屋を出た2人を、カサンドラは呼び止める。


「アオ君、シュシュ、この四葉のクローバーのチャーム……レジ横で見つけて、可愛いから買いましたの。わ、私達って、冒険者パーティーなのでしょう?」


(お揃いのチャームなんだけど……2人は喜んでくれるかしら?)

 

 四葉のクローバーのチャームを見せた。

 それを見た2人は瞳を大きくする。


「おお、四葉のクローバー? えーっと、たしか幸運か? いいな」

 

「とても可愛いです。ドラお嬢様、大切に使います」


「フフ、小型ナイフとお揃いの色を付けましょう」


「はい」

「おう」


 預け所から荷馬車を受け取り、ロロの森に出発する準備をしていた。御者席近くで準備中のアオ君は何かに気付いたのか、仕切りに近くの建物を見ている。


 そして


「…………ふうっ」


 と、ため息を漏らした。

 

「アオ君、どうしたの?」


「い、いや、なんでもない……さぁ、冒険に出発だ!」

 


「「はい、行きましょう!!」」


 

 

 このとき獣人のアオは――冒険者ギルドから、自分たちの後を着いてくる族(やから)に気付いていた。


 2人を守れるよう気を張って、いつでも胸元の隠しナイフを出せる準備をしていたが。そいつらは後をついてくるだけで、何もしてこない。

 

(オレの思い過ごしか? アイツらが……採取クエストを終えて戻ってきた時に、いなくなっていればいいが……)


 いま、冒険を楽しみにいているドラ達に伝えたくない、アオは何も言わず『二人はかならず守る』と心に決めて、冒険に出発した。


 

 

 ドラ達の荷馬車が見えなくなってから、そいつらは姿を表した。

 

「何もできない、腰抜けアオのくせに。女連れだと笑えるぅ〜!」


「可愛い二人でしたね。兄貴はどっちにします?」


「オレかぁ、オレは黒髪のデカい胸の女がいいな――あの胸を揉みてぇ」


 いやらしく手を動かす男の横で、仲間らしき男二人は。

 

「いいっすね、俺達はメガネの小さい方がいいっす」


「じゃ、決まりだなぁ」

 


「ククク、ギャハハハッ――!! まずは、生意気なアオを痛めつけてからだなぁ〜!」


 その獣人達は口悪く話していた。

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