再会
「青の騎士団の者だ」
ジェシーさんが逃げてきた小柄な男に声をかけると、男の人はジェシーさんにすがりついた。
「助けてください。うちにこの男の仲間が。妻と息子が捕まってるんです。お願いします」
「仲間は何人だ」
「一人です」
ジェシーさんがチラリとこちらを見た。
「あの、一人でも帰れます。助けに行ってください」
「わかった。この先のレーブというカフェで待っていてくれないか」
私がうなずくと、ジェシーさんはまわりの人からロープをもらい、すばやく、男を街灯に縛りつけた。騎士団を呼びに行くように頼み、小柄な男の人と一緒に駆けて行く。
仕事ができる人ってかっこいい。と、見送って、私は先に進んだ。
本当に初めて一人で歩く異世界だ。
店の名前を一軒一軒、確認しながら歩く。レーブ、レーブ。
やがて、可愛いお店が現れた。緑の屋根に出窓にはレースのカーテンと赤い花の鉢植え。これはカフェでしょ。
でも、看板が見当たらない。ここで合っているのかな。
のぞきこむと、カーテン越しにテーブルと椅子が見えた。
「どうしたの?」
声をかけられ、振り向くと、若い男性が二人いた。この人たちもチャラい感じがするなあ。シャツの胸元を開けてる感じとか、キラリと白い歯を見せる笑顔とか。
「ここ、レーブというお店でしょうか」
尋ねると、二人は顔を見合わせて、うなずきあった。
「レーブはもう少し先なんだ。案内してあげる」
「でも、もっといい店知ってるんだ。一緒に行こう」
怪しい。これって、ナンパ? それとも、客引き?
「あの、ここで待ち合わせしているので、結構です」
断ったのに、二人は距離を詰めてきた。
「こんな可愛い子を待たせる奴なんて、放っておけばいい」
手首を掴まれると、恐怖で体が硬直した。また、売られたりするの?
「こら、何をしてる!」
大きな声だった。男たちはビクッとすると、私の手首を放し、逃げていった。
「大丈夫か? とりあえず、怒鳴ったが」
大柄な男性が駆け寄ってきた。
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
と、顔を上げて、気づいた。黒マントさんだ。黒マントはないけど、もしゃもしゃした髪にひげ。そして、優しい目。
「また、助けてもらいましたね。本当にありがとうございます」
頭を下げたが、私が誰だかわからないみたい。今日はメイクで化けてるからなあ。
「オークションで買ってもらった」
小声で告げると、黒マントさんの目が丸くなった。
「あの時の?!」
「はい、マリアと言います」
「俺はレオと呼んでくれ」
「レオさん、このお店って、レーブというお店ですか?」
「ああ、そうだが」
「よかった」
「用事か?」
「ジェシーさんに待っているように言われて」
レオさんは眉を寄せた。
「危ないから、付き合おう」
そう言うと、ドアを押した。ドアには小さな金のベルが付いていて、開けるとチリンと鳴った。差し出された手に自分の手を重ねると、中にエスコートされた。
可愛いお店だった。中は若い女の子とカップルで一杯だった。その中に並外れた体格ともしゃもしゃのひげのレオさんは浮いていた。
店員さんが近づいてくると、レオさんは何かバッジのような物を見せた。すると、たちまち、個室に案内された。個室と言ってもドアはないから、フランチェスカさんに叱られることはなさそうだ。
「初めてでいらっしゃるなら、レーブ特製のティーセットをお勧めします」
それを私もレオさんも頼むと、レオさんは私もじっと見つめた。
「ジェシーはどうしたんだ」
そこで今日のいきさつを話した。
「珍しい。休みなのにあいつが真面目に働くなんて」
「いつも真面目なんだと思います。それにジェシーさんのおかげで助かったんです」
そこでお茶とお菓子が運ばれてきた。お茶は紅茶っぽい味。お菓子は赤い小さな実がのったタルトだ。
「美味しい」
「確かに」
レオさんが食べると、ケーキもフォークも小さく見える。
「それで、ジェシーのおかげというのは?」
私はジェシーさんの紹介でデルバールで働いていることを話した。
「それはよかった」
笑顔で言ってもらうと、お父さんに褒められたような気分だ。
「レオさんのおかげです。帰れないとはっきり言ってもらったおかげで覚悟が決まりました」
「よく頑張ってるんだな」
「運がいいだけです」
それより、気になることがあった。
「あの、私、そんなに田舎から出てきたように見えます?」
変なのにこれからも絡まれたら、嫌だなあ。
「いや、そうじゃない。さっきのはそんなタチの悪い犯罪者じゃないと思う。ただ、マリアさんは可愛いいんだから、気をつけた方がいい」
可愛いって、この世界の人はよく言うなあ。あいさつ代わりかな。
「マリアちゃん、待たせてごめん」
ジェシーさんの声が聞こえた。私は慌てて部屋の外に出た。ジェシーさんは怪我も何もないみたい。よかった。
「さっきの方のご家族は大丈夫でした?」
「ああ、大丈夫だ。ただ、仕事に戻らないといけなくなって。デルバールから誰か迎えに来てもらおうか」
「いえ、大丈夫です。道を覚えるのは得意なので一人でも」
「大丈夫じゃないだろう」
レオさんがのそりと現れた。
「かっ、いえ、どうしてこちらに?」
ジェシーさんがピシッと姿勢を正した。
「君がこの店の菓子が美味いと言っていたから、屋敷の者への土産に買いに来たんだ。それから、ついでだから、私がマリアさんを送って行こう」
レオさんの言葉にジェシーさんは驚いたようだった。
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