第6話 幸せに……
部屋の中がシーンとしている。僕は、その静けさに耐えられず、「あの……」と先生に話し掛けた。先生は、僕の右足首から視線を上げて、「何ですか」と訊いた。
さらさらとした、くせのない髪。白い肌。すっとした眉。涼やかな目。その目が僕をじっと見ている。今までですら凝視されたらドキッとしていたのに、あんな告白を受けたら余計に鼓動が速くなってしまう。
「先生。変な質問してもいいですか」
「変な質問……ですか? そうですね。答えられない質問だったら、聞かなかったことにします。それでも良ければ、どうぞ」
僕は落ち着く為に、深い呼吸を繰り返した。先生は、僕の次の言葉を待っているのか、何も言わない。僕は、意を決して口を開いた。
「先生。僕のこと……いつから好きでいてくれたんですか」
「あ。そのことですか。良かったです。それなら答えられます」
先生は、眉一つ動かさずに普通に言う。
「君と出会った時からですよ」
「え。そんな早くですか? じゃあ、僕が
自分でも、何て質問をしてるんだよ、と突っ込みながらそんなことを訊く。先生は静かに立ち上がると、
「嫌な気持ちなんて、そんなことはありませんでしたよ。ただ、
その頃を思い出しているのか、何だか遠い所を見ているような目つきになっていた。
「僕はね、
先生は、そこまで言って、口を閉ざした。僕は、フーっと息を吐き出すと、
「先生。ありがとうございます。先生は、本当に僕の心配ばっかりしてくれるんですね」
「それはそうでしょう。だってね、僕は君を好きなんですから」
また言われてしまった。頬に熱を感じる。きっと赤くなっているのだろう。恥ずかしくて、思わず俯いた。と、先生の手が僕の髪を梳いて来た。僕が顔を上げると、先生は微笑み、
「今日は、僕おかしいんです。さっきも言いましたね。これで帰ります。
「先生……」
「それでは、さようなら。無理しないで下さいね」
先生は、僕に背を向けて歩き出した。僕はゆっくりと立ち上がり、その後を追った。
玄関で先生が靴を履いている時、ドアを開けた。先生は、ドアのすぐそばに立つ僕を見上げながら、
「結果、教えてくださいね。約束ですよ」
「はい。約束します。明日、必ず電話します」
先生は、僕の横をすり抜けて軽く頭を下げると、
「お邪魔しました。おやすみなさい」
背中を向けて、歩き出した。僕は慌てて、「おやすみなさい」と声を掛けると、先生の後ろ姿を見送った。
━━オケとの共演後、何てことになったのだろう。
大きな溜息を吐いて、ドアを閉めた。
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