第16話 少年漫画の話

 スマホが震えだしたので見た。

 編集の田中さんからだった。

 何かあったに違いない。

 慌てて出る。


「はい! 打ち切りです!」

「先生、落ち着いてください、それは一ヶ月先です」

「えっ!? あっ、いや、打ち切りじゃなくて、内田です!!」

 

 いきなりつまづいた。

 まさかペンネームを打ち切りと言い間違えるとは。

 ……ん?

 今なにか妙なことを言われた気がするぞ。


「あの、一ヶ月先って」

「ええ。打ち切りです。ズバッと言ったほうがいいでしょうから」

「マジですか!?」

「ええ。初めて受賞された時以上に声が裏返っていますね。安心してください、確定事項です」

「なっ、ええっ、なぜ!? なぜですか!?」


 打ち切りは冗談であってほしかった。

 いや田中さんは冗談を言うタイプじゃないから本当なのかもしれない。

 できれば嘘であってほしいけど。

 しかし向こうとて俺の漫画が打ち切りになれば収入源が減るはず。

 望ましいことではないはずだ。

 それにも関わらず、あまりにも冷静に伝えられたのでかえって状況を飲み込みきれていない。


「一ヶ月間、内容が進みませんでしたからね。先生を焚き付けなかった私も悪いのですが」


 少し声に怒りのような調子が聞こえる。

 編集の田中さん、基本的に怖いんだよな。

 火山がボッカーン! ってタイプじゃなくて、クレパスに足が挟まるような怖さね。

 そういやこの一ヶ月間、なんかずっと田中さんの声のトーンが低かった気がする。

 やっぱり駄目だったかなあ?


「じゃ、じゃあここから話をたたまないといけないんですね?」

「ええ。即刻。まあ風呂敷もそんなに広げていないので大丈夫でしょう」


 そ、そうかなあ?

 俺は今回が初めての連載だからたたみ方の勝手がわからないぞ。

 とりあえず思いついた疑問を投げてみるか……。


「で、でも、え、えーと、アレックスが実は男だったとか……」

「些事です。その辺の問題はナレーションで解決できます」


 そ、そうかなあ?

 ヒロインの一人が男だったってのはじっくり時間をかけて消化したほうがいいんじゃないのかなあ?


「ええ……? じゃあ暗黒騎士の正体は」

「些事です。そもそも暗黒騎士といいつつ名前負けの活躍しかしていませんよね。読者はもう彼への興味をなくしています」


 そ、そうかなあ?

 暗黒騎士のデザイン、我ながらすっげえかっこいいと思うんだけど。

 まあ先週ヒロインの一人に瞬殺させたけど……。


「え……じゃ、じゃあ」

「全て些事です。いいですか、先生。あと四話も連載できます。四話です。四話。とても重要ですからくどくどと申し上げますが、一ヶ月間も連載できます。週刊連載でこの期間は非常に重要です。ここでうまくエンディングを描ければ次の連載のチャンスがスムーズに回ってきます。失敗したらその分遠のくでしょう。この四話という短期間で読者にいかにアピールできるか、よく考えていくべきなんです」

「え、ええ……わかり、ました……」

「まあ初の連載体験としては中程度の成功ではないでしょうか。失敗も糧になるでしょう」

「はい……」


 その後は流れで次の打ち合わせに入った。

 なんか言葉にしづらい形のショックを感じていたので、やや機械的な返答になっていたかもしれない。

 田中さんも察してくれたのか、比較的早めに切り上げて続きは明日、ということになった。

 スマホを離す。

 なんだかいつもより重く感じた。

 打ち切りってこんな感じなんだなあ。

 具体的な言葉では説明できないけど、時間が経てばわかってくるんだろう。

 どのくらいかかるかわからないけど。

 それにしても、あと四話か……。

 少年誌は難しいって聞いてたけど、うまくやれたんだろうか。

 どうなんだろうか。

 とりあえず、今は休もう。

 だいぶ混乱している。

 少しでも頭を整理して、残り四話で挽回しよう。

 

 ……でも、打ち切りかあ……。


 

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