この小説でサメが好きになりました

第33話までのレビューです。

サメのホラーイメージを巧みな擬人化によりファンタジーへと昇華した本作。
舞台は、サメの村――不漁が続くと、村人たちは子どもを生贄として大鮫様に捧げ、豊漁を祈る迷信が残る物々しい漁村で興味が湧きます。

両親のいない不遇と村人から受ける虐待に苛む主人公の少女・凪は大鮫の生贄にされてしまう。しかし、凄惨と怯懦の恐ろしさの先に待っていたのは鮫人の住む美しい龍宮でした。

そこは海の中に佇む夢心地そのもの。凪は人間として寵愛を受け、心安らかで幸せな時を送るのです。
その海より深い対比が鮮やかに繊細に描かれており、例えようのない切迫感と高揚感とが胸に迫ります。

海に揺れる光の優しさを感じながら、夢のような生活がいつまでも続けばいいのに……しかし、それは長くは続かない――ふいに思わぬ別れが、徒に訪れてしまう。

読者を飽きさせないムーブメント。苛烈を極める現実に共感必至のストーリーテリング。ファンタジーだけで終わらせない作者様の傾ける胆力が尊い。
サメの怖さと優しさと力強さと――喜怒哀楽を丹精に込めた心揺さぶるドラマと世界、もう感情移入せずにはいられない。

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