第 45 話
「行方不明になった子供が住んでいた場所とか教えてもらえるか?」
「探るつもりか?」
「あぁ、一応な」
領主のゲルボーゼ辺境伯も動いているようだが、犯人の目星どころかいなくなった子供の行方すらつかめていない状況だ。
乗り掛かった舟だ。
せめて何か捜査のきっかけになるものを見つけられればと、エルヴィーノはエヴァンドロに情報提供を求めた。
「このあたりの子供が行方不明になっている」
「北西のあたりか……」
エルヴィーノの求めに応じ、エヴァンドロは地図を持ってきて事件に遭った子供たちが住んでいる場所を指さした。
エヴァンドロが指さしたのは、イガータの町の北西部分だ。
「とりあえず行ってみるか?」
「そうですね」
この事件がオルフェオに関連しているとは思いにくいが、子供がいなくなった親のことを考えると、このまま無視するのは忍びない。
とりあえず調べてみようと、エルヴィーノはセラフィーナと共に被害に遭った子供が住んでいた地域に行ってみることにした。
「もしも何かつかめたら、いつでもギルドを頼ってくれ」
「分かった」
ギルドとしてもこの事件を解決したいと考えているため、どんな小さな情報でも欲しいところだ。
そのため、エヴァンドロはエルヴィーノに、ギルドを利用できるのなら利用しろと言外に告げた。
その熱意のこもった目に、エルヴィーノは頷きと共に返事をして、所長室から退室していった。
「ここら辺ですね?」
「あぁ」
行方不明になった子供たちが住んでいた場所に到着したエルヴィーノたち。
町の中心から少し離れている場所ということもあり、若干家同士の距離は離れていて人通りも少ない。
そのため、目撃者が少ないのも仕方がないかもしれない。
「………………」
「……どうしました?」
行方不明になった子供の住んでいた地域を歩き回っていると、エルヴィーノは防壁の西門から町の外へと出る。
そして、そこから少し歩くと、ダーヤ川の岸へとたどり着いた。
そこで足を止めて、何かを考え込んでいるエルヴィーノに、セラフィーナが問いかける。
「あの山……」
「……あの山ですか?」
「そうだ」
ダーヤ川対岸の北を指をさしてエルヴィーノが呟く。
そこには、山があるだけだ。
その山がどうしたというのか。
分からないセラフィーナは、エルヴィーノが何を言いたいのか顎に手を当てて考え始める。
「あの山……、アルーオとの国境になっている山では?」
「その通りだ」
セラフィーナが思いついたのは、あの山がチョディア王国とアルーオ王国の国境となっている山だということだ。
そのことを指摘すると、エルヴィーノは正解とばかりに頷いた。
「あの山の向こう側に行けばアルーオ王国ですね」
「そうだ。だが、あの勾配だとそれほどきついわけでもない。道でも作っておけば馬車も通れるかもな……」
「っっっ!?」
国境になっている山。
当然、それを超えればアルーオに入れることになる。
そのことを、セラフィーナが何の気なしに呟くと、エルヴィーノが意味深な様子で話す。
国境になっているだけに、その山は高いと言えば高いが、その勾配は急ではないということをだ。
それが何を言いたいのかを理解したセラフィーナは、目を見開いてエルヴィーノを見つめる。
「……つまり、チョディアではなく、アルーオ側による犯行だと?」
「恐らくな」
今回の行方不明事件。
対岸に渡られてしまうと追うことが難しいということを利用して、チョディア王国の人間がおこなった犯行だと考えられるが、準備を整えさえすればこの町から少し離れたアルーオ王国の人間でも犯行が可能ということだ。
あくまでもその可能性があるだけで、全く証拠はないため、エルヴィーノはあいまいに返事をした。
「辺境伯がチャディアと交渉しても時間の無駄ということですか?」
「そうだな」
イガータの町の領主であるゲルボーゼ辺境伯は、チョディア王国からの侵攻に警戒するのが役割だ。
何か起きればチョディアを疑うのは仕方がない。
しかし、それによって本当の犯人に行きつかないことになってしまっている。
「アルーオの狙いは、カンリーンとチョディアの関係悪化……か?」
「ボーネ何か起きればチョディアを疑うのは仕方がない。
しかし、それによって本当の犯人に行きつかないことになってしまっている。
「アルーオの狙いは、カンリーンとチョディアの関係悪化……か?」
「ボーネの町でない理由はそれですか……」
カンリーン王国の西、チョディア王国の北に位置するアルーオ王国。
そのアルーオ王国に対して、イガータの町の北にロッコ辺境伯領のボーネの町が存在している。
もしも本当にアルーオ側の犯行だとしたら、そのボーネの町の子供を誘拐するのではなく、イガータの町を狙った理由も分からなくはない。
アルーオ王国は、2年前干ばつに遭い、作物の出来がいまいちで食糧危機に陥った。
それを解消するために、カンリーン王国に攻め込もうとする動きが見え隠れしていた。
しかし、まともにカンリーンに攻め込んでも返り討ちに遭うことが目に見えている。
そこで、カンリーンとチョディアを揉めさせたいのだろう。
自分たちが漁夫の利を得るために。
「正解だったら、ずいぶん狡い手だな」
「そうですね。あまり大げさに動けないからでしょうけど……」
自分で思いついたこととはいえ、言っていて微妙な気持ちになってくる。
食糧危機で餓死者も大勢出ているからといって、他国へ攻め込んで奪い取ろうという考えをしていることもそうだが、別の国を利用して自国の有利に進めようと画策するなんて、短絡的でしかない。
同じ思いからか、セラフィーナも頷く。
「ここからどうしますか?」
アルーオ王国側による犯行の可能性を思いついたが、はっきり言って証拠はない。
証拠となる被害者を見つけるために、セラフィーナはエルヴィーノにこれからどう動くつもりなのかを問いかける。
「俺とノッテで行く。セラたちはオルフェオと共にこの街の宿で連絡を待っていてくれ」
「分かりました」
誘拐されたと思われる子供たちを少しでも早く発見するためには、身軽な状態で動いた方がいいため、さすがにオルフェオを連れて行くわけにはいかない。
そのため、エルヴィーノは通信役のノッテだけ連れて、アルーオ王国内に進入することに決めた。
その指示に従い、セラフィーナはエルヴィーノからオルフェオを受け取った。
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