第 44 話

「まず初めに……」


 イガータの町の町のギルド所長のエヴァンドロ。

 彼の案内を受けて、エルヴィーノたちは所長室に到着した。

 そして、エルヴィーノたちをソファーに座らせ、自分は対面に座ったエヴァンドロは、話を始める前に聞きたいことを聞くことにした。


「なんでお前のような奴がBランクなんだ?」


 エヴァンドロが聞きたかったこと。

 それは、エルヴィーノのギルドカードに表示されているランクと、実力が合っていないということだ。

 アポも取らずに面会を求めるような人間は、身の程知らずな人間ばかりだった。

 ギルドの仕事上、粗野な冒険者の相手をしなければならないため、冒険者時代の実力を落とさないように訓練と重ねているし、職員にはいい顔されないが、色々な人間に模擬戦を申し込んで戦闘の勘が鈍らないようにしていた。

 そのため、身の程知らずの人間は痛みで分からせてきたのだが、目の前に座っているエルヴィーノは、自分以上の実力を有していることが勘で予想できる。

 いつも通り模擬戦を申し込んで、エルヴィーノの実力がどれほどなのかを確かめたい気持ちがあるが、あっさり負けるイメージしかできないため諦めたというのが心情だ。


「昇格試験を受けるつもりがないんでね。Aに上げるといろいろと面倒だろ?」


「……まあな」


 Aランク以上になると、国としても色々と優遇してくれるようになる。

 しかし、その分多くの指名依頼が舞い込んでくる。

 その多くが貴族関連の依頼だったりするので、無下にするわけにもいかない。

 そうなると、制限がかかる場合があるので、好き勝手に行動するということができなくなってしまう。

 Sランクになってしまったら、海外に行きたい時も手続きが面倒になったりするので、当然論外だ。

 多くの冒険者がAランク以上になることを目的としているというのに、実力があるはずのエルヴィーノがAランクにならない理由を聞き、元Aランク冒険者だった経験から理解できたエヴァンドロは、何となく納得できた。


「まあいいか。それで、俺に面会を求めた理由はこの町の情報だったか?」


「あぁ、特に子供関連の情報が欲しい」


 AやSクラスになったとしても、完全に国に止められることはない。

 何なら、そのランクを捨てて他国へ移り住んでしまってもいい。

 他の国にも、この国のようにギルドが存在しているのだから。

 そうしないでBランクに止めているということは、まだこの国にい続けてくれるということだ。

 ならば、余計なことはしない方がいいだろう。

 そう考えたエヴァンドロは、エルヴィーノが求めているこの町の情報について話すことにした。


「…………何故だ?」


 確かに、この町で子供が行方不明になっている事件が存在している。

 何か理由がなければ、その情報を得ようなんて思わないはずだ。

 そのため、エヴァンドロは訝しんだ表情でエルヴィーノに話しかけた。


「実は、子供の行方不明事件の発覚時期と、この子が俺の家の前に置かれた時期が近かったんでね」


 関係者でもないのに子供が行方不明になっている事件の情報を得たいなんて聞けば、エヴァンドロが訝しむのも分かる。

 そのため、エルヴィーノは胸に抱いたオルフェオのことを簡単に説明して、情報を得たい理由を話した。


「お前らの子じゃないのか?」


「違う」


「残念ながら」


 エルヴィーノが抱っこしている子供には気づいていたが、彼と隣に座っている女性同様に黒髪黒目なのだから、2人の子供なのだろうと気になりはしなかった。

 しかし、それが違うということが分かり、エヴァンドロは思わず問いかけてしまった。

 その問いに対し、エルヴィーノは短い言葉で、セラフィーナは本音と取れる真剣な表情で返答した。


「貴族の子が関連していたりしないか?」


 恐らくだが、エルヴィーノの中でオルフェオは貴族に関連していると考えている。

 そのため、この町に起こっている事件が、貴族がらみなのではないかと尋ねた。


「貴族の子? いや、それは関係ないな。この町で行方不明になっているのは、平民の子供ばかりだ」


「……そうか。じゃあ、違うかもな……」


 エヴァンドロの説明を受け、エルヴィーノは少し残念そうに呟く。

 貴族関連でないのなら、オルフェオの親に繋がる情報ではない可能性が高いためだ。


「調査はどこまで進んでる?」


 可能性は低いとはいっても、無関係かどうは分からない。

 なので、エルヴィーノはとりあえず現状どこまで事件解決に近づいているのかを尋ねた。


「……あまり言いたくないが、隣国が関わっている可能性が高いな」


「隣国……、チョディア王国か」


 エルヴィーノの質問に対し、エヴァンドロは表情硬く返答する。

 それを受け、エルヴィーノはその表情の理由に思い至った。

 隣国ということは、チョディア王国ということになる。

 犯人がチョディアの人間によるものだということは、国同士で被害者や犯人の身柄引き渡し交渉をしなければならない。

 しかし、犯行がチョディアの人間によるものだとしたら、もしかしたら国がらみによる事件なのかもしれない。

 そうなると、チョディア側は犯人が自国の者だということは否定するだろう。

 被害者の子供たちを見つければ言い逃れできなくなるだろうが、それを調査するにしてもチョディア側が認めない可能性もある。

 つまり、犯人も被害者も見つけることができない状況ということなのだろう。

 被害者家族のことを思えば、エヴァンドロのような表情になるのも頷けるというものだ。


「ゲルボーゼ辺境伯は、事件の起きたと思われる時期から前にこの町に入った者たちを探っている状況だが、疑わしい人間が出てきていないようだ」


 チョディア側に行って調査をすることができないのなら、こちら側に来た人間をしらみつぶしに探るしかない。

 そう考え、この町を領地としているゲルボーゼ辺境伯の名を受け、領兵たちは入町前の門で確認して記録した人間たちの中に疑わしい者がいないか調べているらしい。


「事件のせいで、辺境伯は頭を抱えておられる。チョディアとの関係がこじれかねないし、被害者家族の訴えも無視することはできないからな」


「だろうな」


 交渉に失敗すればチョディアとの関係が悪くなる。

 しかし、時間をかければ被害者の親たちの我慢も持たない。

 その不満が伝播して一揆にでも発展したら、それこそ目も当てられない。

 その可能性が否定できないため、エルヴィーノは頷くしかなかった。


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