第 43 話

「町に着いたら、さっそく噂の情報収集に動くぞ」


「はい」


 イガータの町が見えてきたところで、エルヴィーノはセラフィーナに声をかける。


「だいぶ時間がかかってしまいましたね」


「そうだな」


 馬車でシオーマの町を出てから南西に向かうこと6日かかり、ようやくイガータの町が見えてきた。

 イガータの町には来たことはないが、近くの村まで転移魔法を使用して、そこから徒歩なり馬車なりで移動すればこんな日数かける必要はなかった。

 しかし、こうなってしまったのは仕方がない。


「もしかしたら、グラツィアーノ様に報告がいっているかもしれないからな」


 この町に来たのには、マディノッサ男爵であるグラツィアーノから仕入れた情報によるものだ。

 情報入手のルートが分からないが、自分たちがこの町に到着したという情報もきっとグラツィアーノに届くかもしれない。

 そうなると、転移であっという間に来たのでは、移動時間の短さに違和感を覚えるはずだ。

 もしかしたら、転移がつけることが知られてしまうかもしれない。

 そうならないためにも、普通に馬車移動をするしかなかったのだ。






「いらっしゃいませ!」


 イガータの町に入ったエルヴィーノたちは、まず初めにギルドに来た。

 ギルドには仕事に関するものだけなく、他にもこの町のいろいろな情報が集まっているからだ。

 ギルドの建物を見つけて中に入り、受付へ向かうと男性職員がエルヴィーノたちに声をかけてきた。


「ちょっと聞きたいことがあるんだが……」


「はい、なんでしょう?」


 ギルドカードを見せつつ、エルヴィーノは受付の男性に話しかける。

 Bランクということは、なかなかの冒険者ということ。

 そのため、職員の男性はどんな用で来たのか気になり問いかける。


「ここの所長との面会は可能だろうか?」


「……少々お待ちください」


 ギルドの所長は、書類関係の仕事等色々と忙しい。

 そのことを知っているので、今日来て今日会うというのはなかなか難しいということは分かっている。

 しかし、情報を仕入れるなら一番良いのは所長に聞くのが手っ取り早い。

 そう考えたため、エルヴィーノはダメもとで頼んでみたら、受付の男性は奥へと入っていった。


「……とりあえず大丈夫なようですが、うちの所長は少々面倒な方ですよ。それでも会いますか?」


「……面倒?」


 戻ってきた受付の男性は、面会は可能だと伝えてきた。

 しかし、その後に不穏な言葉を付け足してきたため、エルヴィーノは首を傾げる。


「おいおい! そんな言い方ないだろ」


 受付の男性の発言を聞いていたのか、彼の後ろから筋骨隆々で白髪短髪の無精髭面の男性が出てきた。


「所長!?」


「……あんたがここの所長かい?」


 受付の男性の反応からして、どうやらこの男性がここのギルドの所長のようだ。

 その確認をするため、エルヴィーノは問いかける。


「その通りだ。エヴァンドロ」


「今日来たばかりで、この町の情報が色々と知りたいのだけど、教えてもらっていいかい?」


 やっぱりこの男性、エヴァンドロがここの所長のようだ。

 その確認も取れたことだし、エルヴィーノは面会を求めた理由を述べた。


「……カード見せてもらっていいか?」


「あぁ」


 エルヴィーノの様子を見つつ、エヴァンドロはギルドカードの提示を求めてきた。

 そのため、エルヴィーノはすぐにカードを差し出す。


「………………」


 ギルドカードを受け取ったエヴァンドロは、エルヴィーノの顔とカードを往復するように見る。

 何を確認しているのか分からないが、無言でいるため、変な空気が流れている。


「どう考えてもおかしいな……」


「はっ?」


 少しの間無言でいたエヴァンドロが、首を傾げつつ小さい声で呟く。

 ギルドカードに、何かおかしなところでもあったのだろうか。

 わざわざ細工なんてしているわけでもないので、エルヴィーノはその呟きに思わず疑問の言葉が漏れた。


「いや、……何でもない」


 訝しむエルヴィーノの様子に、エヴァンドロはなんだか歯切れの悪い様子で否定の言葉を発する。

 その様子はどう考えても何かあるようにしか思えない。


「情報だったな。所長室で話そう」


「えっ? 良いのですか?」


 急に先ほどのエルヴィーノの言ったことに戻し、エヴァンドロは所長室に来るように言ってきた。

 その言葉に反応したのは、エルヴィーノたちではなく、受付の男性の方だった。

 その物言いは、何か意外そうに感じている様子だ。


「んっ? どういうことだ?」


 受付の男性の言葉に、エヴァンドロが首を傾げる。

 自分の発言のどこにおかしなところがあったのかといった様子だ。


「所長は大体こういった時、相手の実力を図るために模擬戦を申し込むことが多いのです」


『だからか……』


 事前の約束も取らずに突然来てギルド所長に会おうなんていう人間は、実力のある者か、思い上がった失礼な馬鹿のどちらかに分かれる。

 エルヴィーノは後者には見えないが、どちらであっても関係ない。

 どちらの場合でも、模擬戦を申し込んで決着をつけないと面会しないのが、ギルド所長であるエヴァンドロの流儀だ。

 そのため、エルヴィーノに模擬戦を申し込まないことに、違和感を覚えたようだ。

 その発言を受けて、エルヴィーノは心の中で納得していた。

 先程、受付の男性が「面倒な方」と言った意味が理解できたからだ。

 問答無用で模擬戦を申し込まれるなんて、確かに面倒としか言いようがない。


「あぁ、こいつらにはそんなことする必要はねえ」


「そう…ですか」

 

 いつもと違う反応をするということは、エルヴィーノたちに何かを感じたということだろう。

 それが何かは分からないが、エヴァンドロの表情はいつもとは違い、若干緊張しているように見える。

 そのことから、受付の男性はそれ以上ツッコムのをやめた。


「悪いが、こいつらに飲みもんでも用意してくれ」


「……分かりました」


 所長室に案内するべく、エヴァンドロはエルヴィーノたちをバックオフィスの通路へと促す。

 そして、そこから離れるとき、先ほどの受付の男性に飲み物を持ってくるように頼んだ。

 いつもだったら、気づいた自分たちが持っていくことはあっても、エヴァンドロ自ら気を遣うなんてことはない。

 そのため、エルヴィーノたちはもしかしたら貴族か何かなのかと思いつつ、受付の男性は頷いたのだった。


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