第10話 防衛部隊
星宮こと星宮瑛里華(ほしみやえりか)は出自にも容姿にも恵まれた少女である。
その端整な容姿はまさに絢爛たる美と呼べる。和風の上品さが顔立ちに宿り、深い茶色の瞳は静かな気品を湛えている。黒い髪はシルクのように滑らかで、腰まで優雅に伸びており、透明感ある肌には、ほんのり桜色の血色が映え、彼女の優雅さを一層引き立てていた。
地球では大財閥会長の孫娘として生まれた事もあり、何ひとつとして不自由の無い暮らしをおくってきた。社交的な性格も幸いし、同級生の中では常に女子ヒエラルキーの頂点として君臨していたが、その一方でどこか満たされない気持ちを抱えていた。そこで異世界に召喚され――。
元々遠距離戦に適正があった彼女は、獲得した膨大な魔力を活かしつつ、様々な魔法を駆使した戦闘のエキスパートとなった。強力な魔法を次々と繰り出し、相手を圧倒するその姿は、正に敵を蹂躙する女帝の如く、といった様相である。
遠藤同様に同級生の中でも抜きんでた戦闘能力を保有する彼女であったが、攻勢部隊への参加を辞退したため、防衛部隊のリーダーを任される事となった。
「これでよろしかったですかな?ご希望通り、防衛部隊に組み込ませて頂きましたが……。
こう言ってはなんですが、星宮殿に防衛に回って頂く、というのは内政を担う立場からすると実に心強いですね。」
「ええ、私の我が侭を聞いて頂き、有難うございますわ、フェリックス様。
そう言って頂けますと私も心休まります。」
部隊編成の時とは打って変わり、落ち着いた声で優雅に一礼をする星宮に、フェリックスは苦笑いする。
「ひとまず、引き続きお力を貸して頂けるとのことで安心しました。
今後の調整がありますので、私はこれにて。星宮殿の今後のご活躍を期待しております。」
ゆったりとした歩調で去っていくフェリックスを笑顔のまま見送ると、星宮は防衛部隊の主要メンバーに対して、声を掛けて回る。
「川崎君はやっぱりこちらのメンバーでしたのね。貴方に守って貰えるのなら、とても安心できますわ。」
「え、ええ!も、もちろんです!任せて下さい、星宮さん!」
憧れの星宮に名前を呼ばれ、感激と緊張の狭間でどもった回答をしたのは川崎陽翔(かわさきはると)。誠実ではあるものの、やや権力者の言葉に流されやすい性格をしている彼にとって、星宮の言葉は天の声にも等しいといえる。
異世界に召喚された後、ソルダリア王国騎士たちに従って愚直に訓練を積んだ川崎は、大剣と重厚な大盾を携えて打ち払い、護るという戦闘スタイルを身に着けた。その姿は指導者たちと同様、騎士そのものの姿に見える。
「そちらのお三方にはよく支援して頂いてますわね。常々感謝しておりますわ。何も、戦闘の前線に出るだけが仕事という訳ではありませんものね。
ああ、それに比べて、あの――何てお名前だったかしら?
そう、そう。佐々木さん。佐々木さんときたら……。」
「全く。皆で協力をしなければいけないというのに、困ったものですわね。お荷物どころか、私たちクラスメイトの立場も危うくするなんて。――皆さんもそう思うでしょう?」
「……。」「そ、そうね!」「そう、ですね。」
文字通りに三者三葉の答えを返したのは三人の少女たち――溝ノ口天音(みぞのくちあまね)、春奈灯火(はるなとうか)、吉田命采(よしだみこと)だ。彼女たちはその魔力の小ささ故、騎士たちから早々に見切りをつけられ、後方支援へと回されていた。順に回復術士、魔術士、弓使いとなっている。
「――そう言えば、貴女がたもあの日、同じ街にいらしたそうですわね?
佐々木さんに不審な様子は見られませんでしたの?」
「し、知らないわ!ほら、仲が良かった訳でもないし、別の部隊だったから。」
代表して答えた春奈、そして目を泳がす残り二人に訝しげな視線を送った星宮だったが、直ぐに興味を無くした様に話を打ち切る。
「そうですのね。
まあ、別に良いですわ。勝手な行動をとった佐々木さんが悪いだけの事。何かあったとしても、それは自己責任というものでしょう。」
「後は――正親君ですね。貴方の戦闘力にも期待しておりますわ。私が後方支援を致しますので、存分に剣を振るって下さいな。」
「おお!任せされたぜ、星宮!」
最後のメンバーは正親拓郎(おおぎたくろう)。実直かつ短慮な性格であり、その思いの赴くまま訓練に打ち込んだ結果、手にした両手剣をただその情熱の限りに振るって戦う剣士となった。
攻勢部隊に主力を集中させているとは言え、防衛にもある程度の戦力がある事を確認し、実戦に向けた運用を思案する為に自室へと戻る星宮。
「しっかりとミッションをこなさないといけませんわね。中々の難題ですが……、まあ私なら何とかなることでしょう。」
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