第9話 攻勢部隊

 遠藤こと遠藤雄輝(えんどうゆうき)は地球の平凡な家庭の生まれである。一方で、その容姿は平凡からほど遠かった。

 透明感あふれるアーモンド形の黒い瞳が煌めき、微笑むたびに輝きを振りまく。整った小鼻と端整な顎線が、彼の顔立ちに華やかな印象を与えていた。黒髪は滑らかに流れ、程よい長さで彼の頭を取り巻いており、高身長にスラッとした体型は、欧州風の人々が暮らすソルダリア王国においても十分に目を引くものであった。

 恵まれた容姿を活かし、そして運も味方したことで、地球ではトップアイドルとしての道を順調に歩んでいたが、その一方でどこか満たされない気持ちを抱えていた。そこで異世界に召喚され――。

 元々近距離戦に適正があった彼は、同級生の中でも抜きんでた戦闘能力を獲得し、魔法と剣を華麗に使いこなして戦う姿は、正に『勇者』と呼ぶにふさわしいものとなった。

 そして、同級生・ソルダリア王国双方から大きな信頼を得た彼は、攻勢部隊のリーダーへと抜擢される事となる。


「星宮の奴が迷惑を掛けて申し訳ございません。あいつの分も自分が働いて見せますので、どうか、ご容赦ください。」


 部隊編成完了後、遠藤は直ぐに挨拶回りを始める。エンタメ業界で生き抜く為に身に着けた所作だ。

 まずは、訓練ダンジョンに引き続き攻勢部隊にも同行し、サポートを行うフェルナンドとリリィに声を掛けた。


「別に遠藤殿が気にされる必要はない。別編成に、というのは我々も考えていた事だ。特に大きな問題とはならないので安心して欲しい。

 星宮殿の能力は抜きん出ているが、編成上必要な戦力という点では他の方でも問題ないと考えている。」


「寛大なご対応、感謝いたします。ありがとうございます。

 それに、お二人にご同行頂けるとのこと、非常に心強く感じています。

 是非、今後とも変わらぬご支援、ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。」


 遠藤は深々と頭を降ろし、謝意を現すとともに、二人への歓迎の意を示す。


「……はは、遠藤殿は年齢に随分と礼儀正しいですね。

 大変だとは思いますが、攻勢部隊リーダーの役割、宜しくお願い致しますよ。遠藤殿には期待しております。

 では、またのち程。」


「リリィさんとまたご一緒出来て、とても嬉しいです。リリィさんに早く一人前と認めて貰えるよう努力しますので、見ていて下さいね!」


 踵を返したフェルナンドに続こうとしたリリィに対して、遠藤が言葉を付け加える。ソルダリア王国でも十分に通用する美少年スマイルを向けられて、思わず少し頬を赤らめたリリィは、何も言わずに手を振って応え、そのまま去っていった。


 騎士二人と別れた遠藤は、続いて攻勢部隊のメンバーとなった同級生たちへと声を掛けて回る。


「やあ、翔くん!君が一緒で嬉しいよ!君の刀の冴えには、いつも惚れ惚れしていたからね!

 あの流れるような美しい軌跡は芸術に通じるものがある。」


「あ、遠藤さん!ご一緒出来て自分も嬉しいです!

 自分、一所懸命頑張りますんで!宜しくお願い致します!」


 最初の一人は五十嵐翔(いがらしかける)。召喚される前までは何かスポーツなどを行っていた訳ではないが、生真面目な性格が功を奏して訓練に真摯に取り組んだ結果、才能が開花し高い戦闘能力を得るに至った少年である。

 刀を得物とし、自由自在に戦技を繰り出す。ロボットもののゲームを好んでいたため、好きな言葉は『熱血、魂、根性』の3つとなっており、それを体現した戦闘スタイルを会得した形となる。


「藤岡くん、君が同行してくれるのは実に心強い!

 心に問いかけてくるかのような必殺の飛び蹴り、期待しているよ!」


「押忍!遠藤になら背中を任せられる!敵の殲滅はこの俺が引き受けよう!」


 二人目は、藤岡紅緑(ふじおかこうろく)。幼い頃より空手を習っていた彼は、高校生にしては十分に鍛え上げられた体躯をしていたが、それが訓練で更に磨き上げられ、ソルダリア王国の猛者たちにも引けを取らないまでに成長していた。

 その圧倒的なパワーを身体強化の魔法で更に強化する事で、いかなる相手とも素手で相対出来るまでに至った。


「ああ、何故僕が攻勢部隊に……?神よ、そんなにも僕の事がお嫌いですか?

 え?何ですと?お前の事なぞ知らん?だから、適当にサイコロを転がして決めておいた、ですと!?

 防衛部隊に回して欲しいと、あれ程祈りを捧げてきたというのに、認知すらされていないなどと……。絶望したっ!」


「……ははは。相変わらず変わっているね、大槻君は。平常運転のようで安心したよ。

 何だかんだ言っても君の回復や防御魔法は的確だからね。頼りにしているよ。」


 坊主頭で天を仰いで絶望を口にしている少年は大槻波流(おおつきはる)。寺の息子で仏教徒だった彼は、異世界に来て直ぐに宗旨替えをしてマギスフィアの神の信徒となった。郷にいては郷に従え、彼の好きな言葉である。

 悲観的な言動が多く、『絶望した』が口癖ではあるが、魔力が高い上に的確な援護が行える事から、攻勢部隊への編入となった。因みに、大の肉好きで、酒にも興味津々の破戒坊主である。


「はっはー。はるぴょんは相変わらず面白い人ですね~。絶望しても大して影響ないんだから、結局何も望んでいなかったんじゃないかと思っちゃいますけど!

 あっ、遠藤君!私もこっちみたいなんで、宜しくね!」


「笑茉ちゃん、こちらこそ宜しくね。

 戦いの中でも潤いは忘れずにいたいからね。笑茉ちゃんの笑顔で癒して貰えると有難いかな。

君の笑顔は皆の支えになるよ。」


 笑顔で話しかけてきた少女は近藤笑茉(こんどうえま)。長くてサラサラの黒髪はいつも元気に揺れ動き、大きな瞳には好奇心と活力に満ち溢れている。いつも笑顔を絶やさず、皆に好感を持たれている一方で、一度スイッチが入ると毒舌が止まらなくなるという性癖をもつ。

 生来、器用で身軽だった彼女は、異世界でスカウトとしての才能を開花させ、攻勢部隊へと編入される事となった。日本の短剣と髪を躍らせながら戦うその姿は、優雅な舞のように華やかだ。


「私もこっちみたいだから、宜しく。あんたの胡散臭くて薄っぺらな笑顔は気に食わないけど、戦闘では期待しているわ。せいぜい頑張って頂戴ね、勇者様!

 あ~あ!星宮さんがごねなきゃ、私は防衛に回れたんだけどね!リーダーはリーダーらしく、上手くやって貰いたいものだわ、全く!やっぱり、二人もいると纏まらないものなのかしらね?」


「ははは。済まないね、白石さん。

 ただ、別に星宮さんの代打という訳ではないと思うよ?君の火力は物凄い、の一言に尽きるからね。しかも、一回で魔力切れにならないのが素晴らしい!

 その力で敵を焼き払ってくれる事を期待しているよ。」


 最後の一人は白石晶(しらいしあきら)。口は悪いが面倒見の良い姉御肌の性格の少女である。ただし小柄で、身長は低い。

 赤みがかった髪をショートカットにしており、活発な性格を物語っている。冷静さと知性を感じさせる澄んだ茶色の眼は、時折鋭さをみせ、他者を威圧することも。

 同級生の中では星宮に続いて魔力が高く、光魔法(レーザー)を得意とする。また、爆炎魔法で魔物を吹き飛ばす事に快感を覚えている。

 一通り話し終えた遠藤は、皆と別れて自室へと戻る。その途中――。


「薄っぺらい、ね。白石め、適当そうでいて意外とよく見ているな。まあ、アイドルの大半は優しい嘘で出来ている、と相場が決まっているものさ。俺はまだ完璧でも究極でもないが。

 ――俺の心内など、とうに決まっているさ。俺は、必ず彼女を……。」

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