第6話 森の日常

「……わたしは~、げんき~♪と!」


 小さなミミズクっぽい何か達に連れられ、ご機嫌で森を探索する璃星。大きく腕を振ってはしゃぐその姿は、見た目通りの幼女にしか見えない。

 今璃星が陽気に散歩している場所はソルダリア王国と魔王治める魔族の国とを隔てる境界線に存在する大森林である。ここには多くの巨大な力を持った魔物たちが巣くっている事から、どちらの国も森を経由して進攻出来ずにいた。

 また、森に接しているもう一つの国は多くの亜人たちが住む中立国であった事から、この森一帯は一種の緩衝地帯となっていた。

 そんな危険な森を無防備に進む璃星たちであったが、途中出会った魔物たち――態度のやたらでかいペンギン、喉元しか狙ってこなさそうな兎、猛毒を持った爪が特徴のコアラなど――も、森の主?であるミミズクっぽい何かを怖れてなのか、決して手を出しては来なかった。


「何?これは服?くれるの?ありがとう!おっきいクモさん!」


 逆に、巨大な蜘蛛や、悠久の時を生きていそうな大きな鳥などからは施しを受ける事もあった。主に午前中はこうして魔物たちと交流しつつ、璃星は新たな身体に感覚を馴染ませていった。

 午後にはアルカディウスが姿を見せ、マギスフィアに関する知識や魔法、武器類の扱いなどを璃星に教える。

 持前の才覚か、或いは身体の潜在能力と年齢に引きずられたのか、璃星はベルサイユのわたが油を吸うが如くそれらを吸収していった。

 夕食後にはお返しとばかり、璃星が自分の話をアルカディウスに聞かせる。


「何か聞きたい事が、ある?因みに、今のスリーサイズは上から……」


「娘の成長度合いにはもちろん興味があるが……。それはまた10年後くらいに聞かせて貰おうかな。それと、他の男どもには絶対に話してはいけないよ。パパとの約束だ。

 ――そうだな。パパにリセがこの世界、マギスフィアに来る前の話を聞かせてくれないかな?」


「ここに来る前の話?とても平凡で、売れないピン芸人の一発ギャグ位に何の面白みもないと思うけど?」


「それでも構わないさ。異世界の生活、文化。それだけでも、とても興味がある。」


「ならいいけど?それじゃあまずは――。」


 璃星はアルカディウスが飽きるまで、話をする。両親の事。地球での生活。学校での出来事、そして――。


「……平凡。パパは全くそんな事は無いと思うけどね?

十分にエキサイティングで――稀有な体験をしてきている。」


「――眠たい。もうダメ。ねむねむ。」


 身体に引きずられているのか、宵が迫る前に眠気に襲われ、璃星は話の途中で意識を手放す。

 眠ってしまった璃星を笑顔で抱え上げたアルカディウスは森の奥へと転移し、木の根元にすっぽりと収まって眠っていたミミズクっぽい何かの腹へとゆっくりと降ろす。


「何、勝手に乗せるなって?

何を馬鹿な事を。幼女の寝床と言ったら、君の腹の上と相場が決まっているだろう?そのモフモフは何の為にあると思っているんだい?」

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