第41話 if シスターズの共演⑥ ~一夜明けて~

【前書き】2024.05.08

 これは第四章ではなく第一章の36~48話のifとなります。

 これを書くにあたった理由としましては、美玖と葉月の行動が非常識すぎるという指摘を受けまして、私自身も読み返したところ確かにそうだと思いました。


 一応、言い訳のようなことを言わせていただきますと、当初は

1.美玖と葉月が怜、桜彩の所へとやってくる。

2.四人で意気投合する。

3.怜と桜彩のトラウマについて告白

4.四人で桜彩の誕生日を祝う

 というプロットを組んで物語を書いていたのですが、小説家になろうの方へ投稿する直前に、桜彩の誕生日を四人ではなく怜と二人きりで祝いたい、と思って突貫作業で話を変更した結果、美玖と葉月の行動に充分な修正が効かずに現在のようになってしまいました。

 先述の通り、私自身も読み返して二人の行動にデリカシーが大きく欠如していると感じた為、当初のプロットに修正を加える形で36~47話を書き直してみようと思います。

 もしかしたら現在掲載している内容と入れ替えるかもしれません。

 修正に当たってのご意見、感想等あれば遠慮なくお願いいたします。


※書き直した美玖と葉月の行動全てにデリカシーが伴っているわけではありません。


 第四章は今週中には投稿開始出来るように頑張っていきますので引き続きよろしくお願いいたします。 




【本編】


「ふあぁ……」


 翌朝、いつもの時間に目を覚ました怜。

 時計が指し示す時刻はいつもと同じで午前五時半。

 一般的に考えれば桜彩達はまだ寝ていてもおかしくはない。

 顔を洗うために洗面所へ向かう途中でリビングへと寄ると、リビングに敷いた布団の上で美玖もまだ眠ったままだ。


(昨日は色々とあったよな……)


 美玖がいきなり押しかけてきたかと思えば実は桜彩のことを知っていて、そして桜彩の姉の葉月まで訪ねて来て。

 そして思いがけずに桜彩の過去を話してもらって。


(桜彩にそんなことがあったなんてな……)


 昨日聴いた時も驚いたのだが、一晩経って気持ちを落ち着けてみるとその事情に胸が痛む。

 程度の違いこそあれ同じような事実を経験している怜ではあるが、隣で陸翔や蕾華が支えてくれた。

 そんな二人のような存在がいなかった桜彩にとって、それは本当に心が壊れてもおかしくないくらい辛い出来事だっただろう。


(とりあえずは走るか……)


 二度寝をする気分でもない為にいつもの通りジョギングへと出かけることにする。

 悩んでいてもどうにかなるわけでもないし、とりあえず少し走れば気分も変わるかもしれない。

 そんなわけで怜は美玖にメモで伝言を残していつもの通りに外へと出て行った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「おはよう二人共」


「おはようございます」


 午前七時過ぎ、インターホンが鳴って渡良瀬姉妹が玄関から入ってくる。


「ああ、おはよう」


「おはよう、二人共。もうすぐ朝食が出来るから」


 リビングの椅子に座ってニュースを見ている美玖と、キッチンで朝食を作っていた怜が挨拶を返す。

 とりあえず桜彩の様子を見るとまだ少し緊張しているだけで普段とあまり変わらないようだ。


「すみません怜さん。お手伝いが出来なくて」


 怜の姿を見るなり桜彩が申し訳無さそうに頭を下げる。

 普段であれば桜彩も料理の練習ということで朝食を作る手伝いをするのが日課なのだが、久しぶりに再会した葉月と色々と話すこともあるのだろうと思い、今日の朝食は自分で作ると怜は提案した。

 桜彩としてはただでさえ世話になっているのでそのような事は申し訳ないと断ろうとしたのだが、美玖の説得により怜の提案に頷いた。


「別に気にしなくてもいいわよ」


 と椅子に座っている美玖が口にする。


「いや、確かに姉さんの言う通りなんだけど、だからって何で姉さんが答えるの?」


 コンロの火を止めながらそう答える。

 ちなみに美玖も怜と姉弟だけあって、また元家庭科部部長の肩書も持っており、怜と同様に料理が出来るが絶対に手伝わないだろうという確信が怜にはあった。

 当然のようにその予想は当たったわけだが。

 フライパンの中身を大皿に移していくと、リビングに食欲のそそる香りが広がる。


「あ、運ぶの手伝います」


「それじゃあ頼む」


 さすがにそれくらいは手伝わせてくれと桜彩が怜から皿を受け取ってテーブルへと運ぶ。

 その間に怜はフライパンに水を溜めて軽く汚れを落としてしまう。


「今日はフレンチトーストね。うん、美味しそうじゃない」


「ええ。良い香りね」


 テーブルに運ばれてきた料理を見て美玖と葉月が嬉しそうな顔をする。


「今度からはちゃんと連絡してから来てよ。食材が足りなかったから、朝に急遽買い出ししてくることになったんだから」


 いきなりの来訪で二人分の食材が足りなくなったので、ジョギングのついでにコンビニで食パンを買ってきた。

 スーパーに比べれば格段に価格が高い為、あまり買いたいとは思わなかったが背に腹は代えられない。

 そもそも両親から生活費を多めに振り込まれているし、怜自身も節約するところは節約しているのでだいぶ余らせている為に財布への影響はないのだが。


「はいはい、悪かったわね。分かった分かった。今度来る時はちゃんと食材も買って来るから」


「……連絡してから来いって言ってるんだけど」


 それがどうしたという感じでふんぞり返っている美玖に怜がため息を吐く。


「一応言っておくけどね、今日の朝食はこのお姉様が可愛い弟におごってあげようと思ってたのよ」


「だったら先に言えっての」


 当初美玖と葉月がこちらに来る前に考えていた予定では、昨晩それぞれの弟妹の元を訪れた後で顔合わせしようと考えていたらしい。

 姉達シスターズとしては隣同士に住む怜と桜彩が同じ学園に通っていることも当然知っていた。

 だが良くて友人、悪くて他人だろう程度にしか考えておらず、ここまで仲が良いとは思ってもみなかったようだが。


 フレンチトーストにミニオムレツとサラダ、オニオンスープを加えて朝食の準備が終わり四人で食べ始める。


「うん、美味しいじゃない。料理の腕は落ちてないみたいね」


「そりゃあ一度覚えればそう簡単に下がるもんでもないでしょ」


 フレンチトーストを食べながら満足そうに評価を下す美玖。

 一方で桜彩はミニオムレツを半分に切り分けて口に運ぶ。


「ですが本当に美味しいです。このオムレツも中に……ひき肉とチーズですか?」


「ああ。少し余ってたから入れてみた」


 四人分にしては卵の残りが少なかったので中に入れてかさ増しした、という理由もあるのだが。


「葉月さんはどうですか?」


「ええ、美味いわね。やっぱり姉弟だけあって美玖の味に似てるわ」


「まあそれは」


 怜も美玖も料理については一通り母に教わった為、味付けが似るのは当然だ。

 そんな感じで四人は怜の作った朝食を食べていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「それで姉さん、いつ帰るの?」


 朝食を食べ終わり、食後のコーヒーを飲みながら気になっていたことを聞く。

 軽いジト目と共に。

 その視線に美玖は心外だと言わんばかりにムッとして


「なによ。早く帰って欲しいみたいな言い方して」


「連絡くれれば別に良いけどさ。こっちにだって色々と予定ってもんが……」


「だから抜き打ちで来ないとあんたがちゃんと生活出来てるか分からないって言ってるじゃない」


「もう少し弟を信用して欲しいものなんだけど」


「お姉様としては弟ってのはいつまでも手のかかるもんなのよ」


 まあ怜としても心配してくれるのは嬉しいのだが。


「でもあんたの方も別に変ったことがないようで何よりだったわ。いやまあ、一つだけあったみたいだけどな」


「ふふっ、そうね。それも特大の事件が」


 美玖の言葉に葉月が苦笑して同意しながら怜と桜彩の方を向く。

 それを受けてさすがに気まずそうに顔を伏せる二人。


「ああ、ごめんね桜彩ちゃん。別に責めているわけじゃないわよ。むしろ怜にそんな友人が出来たってのは嬉しいんだから。だから桜彩ちゃん、これからも怜と仲良くしてあげてね」


 まるで保護者のように桜彩へとお願いする。

 まあ一応間違ってはいないのだが。


「は、はい。それはもちろんです。むしろ私の方が怜さんのお世話になっていますので」


 桜彩の言葉に美玖は少し苦笑する。


「ああ、そういう事じゃないのよ。そういうのを抜きにして、怜の友人として仲良くしてねってことだから」


「はい。それはもちろんです」


「うん。ありがと」


 そう言う美玖の表情から、先程までの少しふざけた態度とは違ってとは違い本気で怜のことを想っているのだと桜彩にも分かった。

 そして美玖は怜の方へと視線を移して睨むように見つめる。


「ちょっと怜。こんな良い子、絶対に傷つけるんじゃないわよ」


「それこそ言われるまでもないよ。俺は友人を裏切ることは絶対に無いから」


「まあそれはあたしも信用してるけどね」


 そう言って美玖は少し笑って一気にコーヒーを飲み込んだ。


「怜の方も桜彩をよろしくね」


「ええ。大切な友人ですからね」


「ふふっ。ありがとうございます、怜さん」


 葉月の言葉にしっかりと頷く怜。

 それを見て桜彩も嬉しそうに笑う。


(……友人、ね)


(……もうそれ以上の関係に見えるんだけどね)


 そんな仲の良い二人を姉達シスターズは少しばかり複雑そうに眺めていた。

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