第67話 男子会と女子会② ~再びからかわれるクールさん~
「むっ!」
「お、また送られてきた」
陸翔からのメッセージに目を釣り上げる蕾華と興味深そうに画面を覗き込む奏。
桜彩もクールぶりながらも内心は送られてくる写真に興味津々だ。
猫カフェの中では蕾華達三人が三者三様に陸翔から送られてくる写真を興味津々に眺めている。
「いやー、きょーかんと犬ってのも結構似合うね」
そう呑気に言う奏にキッと視線を向ける蕾華。
猫好きかつ(親友として)怜好きな蕾華として、その台詞は看過出来ない。
「確かにれーくんと犬も似合うけど、それ以上に猫の方が似合うから!」
「いやー、そうかもしれないけどさー」
他の二人とは違い、猫にそこまでの思い入れのない奏が濁した返事をする。
(確かに怜は猫も似合うよね)
先日、一緒にここへと訪れた時のことを思い出す桜彩。
二人に話すことは出来ないが、スマホの中に入っている怜と一緒に猫を抱きかかえながら写った写真は桜彩にとって大切な宝物だ。
そんなことを考えながら、つい自分のスマホを撫でるように触ってしまう。
「ねえ、渡良瀬さんもそう思うよね!? れーくんには絶対に猫の方が似合うよね!?」
「はい。確かに光瀬さんには猫が似合うような気がします」
蕾華の言葉に桜彩は意識を引き戻して答える。
蕾華自身は知る由もないが、確かに怜が猫と戯れている写真は本当に似合っていた。
「うんうん! やっぱり渡良瀬さん分かってるなー!」
桜彩の返事に気を良くする蕾華。
そんな二人の会話をよそに、奏は蕾華のスマホへと送られてくる写真を眺める。
「てかさ、やっぱきょーかんって雰囲気変わるよね」
その言葉に桜彩と蕾華もスマホへと視線を戻す。
「ね、クーちゃんもそう思わない?」
「そうですね。そう思います」
普段の怜の姿を思い出して比べてみる。
写真の中の怜はヘアバンドをしているだけなのに随分と印象が変わってくる。
「うん。きょーかんってなんていうか、普段は結構落ち着いた雰囲気してんだけどさ。ヘアバンドするだけでそういう感じがなくなるんよね。クーちゃんはまだ見たことなかったよね?」
「はい。私は普段の光瀬さんしか知りませんので」
確かに奏の言う通り、桜彩は普段の怜の姿しか見たことがない。
まあ普段の怜についても少なくとも奏以上に見ているのだが、そんな桜彩でもこのような怜の姿は初めて見る。
「ですが普段の体育の授業の時はいつも通りですよね」
先日の体育の授業を思い出してみる。
あの時の怜はヘアバンドをせずに授業を受けていたはずだ。
その答えに奏が少し意外そうに桜彩の顔を覗き込む。
「へー、クーちゃんってきょーかんのことよく見てるんだね」
「え!?」
「なになに? もしかしてきょーかんに興味あったり?」
「い、いえ、その、授業中に他の方が光瀬さんの方を見て話していることがありましたので、つられて見てしまったと言いますか……」
ニヤニヤと眺めてくる奏に慌てて言い訳のように早口で答える。
とはいえ桜彩の言うことも間違いでもない。
怜は運動神経が良く各種スポーツも全般的に高いレベルでこなすことが出来る。
外見が良いことに加えそういった要素からも異性人気が高く、体育の授業中に女子の視線を集めることも少なくはない。
加えていつも一緒にいる陸翔も蕾華という彼女がいるとはいえ人気が高いので、そんな二人が一緒にいるとより視線を集めることになる。
「ふーん」
桜彩の答えに奏はまだニヤニヤとした視線を止めることはないが、それ以上の追及はしない。
「れーくんって熱くなる時は結構熱くなるからね。特に勝負事とか。だからりっくんと本気で勝負する時は髪が顔に掛かるのを嫌がってヘアバンドすることが多いかな」
「まあクーちゃんには、普段落ち着いてるきょーかんがそんなに熱くなるとこはあんま想像出来ないか」
「そ、そうですね……」
奏はそう言うが、スポーツ中ではないにせよ桜彩は怜が熱くなったところを一度見ている為に、怜が熱くなると言われても違和感はない。
葉月が桜彩に疑いの目を向けた(ように見せかけていた)時、怜は桜彩の為に怒ってくれた。
普段は穏やかだが内面はかなり熱いものを持っていることは良く知っている。
その時のことを思い出すと、自然と桜彩の顔が赤く緩んでくる。
(竜崎さんも宮前さんも、怜のことをたくさん知ってるんだなあ。でも、私しか知らない怜もたくさん存在するんだよね)
怜と仲の良い二人にすら見せない姿を自分に見せてくれるのが嬉しい。
そんなことを思っていると、隣の奏が体育の時のことを思い出しながら口を開く。
「まあ普段のきょーかんもヘアバンしてるきょーかんもどっちもカッコイイけどさ」
「え!?」
予想もしなかった奏の言葉に桜彩が驚いて固まってしまう。
緩んでいた表情が一瞬で硬くなり、目を丸くして横に座っている奏の方へと視線を向ける。
「クーちゃんもそう思わない?」
「え!? そ、そうですね……。その、確かに宮前さんの言うように格好が良いとは思いますが……」
いきなり話を振られた桜彩が小さな声でそう答える。
「うんうん。それに勉強も出来るし家事も出来るしなにより優しいしさ。ぶっちゃけ女の子にモテるのも無理はないっしょ」
「そ……そう……かもしれませんね……」
もう頭がパンクしそうになってどう答えていいか分からない桜彩が顔を赤くして俯いてしまう。
そんな桜彩の姿を見た二人が意外そうに首を傾げる。
「あ、もしかしてクーちゃんも、きょーかんのこと好きになっちゃったり?」
「え、ええっ!? た、確かに光瀬さんは男性としてはみろく……魅力的だと思いますけど……ですが、それで好きと言うのは……」
普段クールな桜彩がここまで取り乱すのを二人は初めて見る。
まるで良いおもちゃを見つけたように奏がニヤッと笑って更に言葉を続けようとしたが、そこで蕾華が割って入った。
「奏、あんまり渡良瀬さんをからかわないの」
「はーい。クーちゃんごめんね」
蕾華の言葉に奏は少しやりすぎたかと反省して、両手を前に合わせて素直に桜彩に謝る。
「え……? からかっ……?」
そこでようやく桜彩は奏にからかわれていたことに気が付いた。
何か言おうと言葉を探すが言葉が出てこない。
ぷしゅぅ、という効果音が聞こえてきそうな勢いで桜彩はテーブルへと顔を落とした。
マドレーヌ作りの時もそうだが奏には怜との仲をからかわれることが多い。
決して自分と怜の関係がバレているわけではなさそうだが。
「いやー、ホントごめんね。クーちゃんが可愛いからつい」
「い、いえ……大丈夫ですから……」
なんとかその言葉だけを絞り出す。
「全く。渡良瀬さんはアタシ達と違って真面目なんだから」
「あはは、ごめんごめん。でもさ、クーちゃんって普段クールな感じだけどさ、今みたいな顔することもあるんだね」
「あう……」
「だからからかわないの」
呆れたように
それに対して奏はテーブルに倒れたままの桜彩の肩を優しく撫でながら慰めていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「てかさー、送られてくる写真、全部きょーかんだよね」
桜彩が少し回復したところで、陸翔と蕾華が互いに送り合ったメッセージを眺めていた奏がふと呟く。
「まあ向こうはりっくんとれーくんの二人しかいないからね。アタシの方も、あの二人に渡良瀬さんの写真を送るのはどうかと思ったから奏の写真しか送ってないし」
桜彩と怜が仲の良いことを知らない蕾華は、あまり親しくない相手に写真を送るのはどうかと思ってその辺りの配慮をしていた。
こういったところからも、怜が蕾華の人間性を褒めていたのが良く分かる。
「あ、それじゃあさ、このきょーかんの写真、ウチの方に送ってくれる?」
「うん、いーよ」
(えっ……!?)
奏の台詞に再び桜彩が驚く。
今度は声を上げることを何とか回避したが。
そんな桜彩の内心に隣の二人は全く気が付いていない。
「ちょっと待って。今から送るから」
「はいはーい。よろー」
陸翔から送られてきた写真を蕾華が奏の方へと転送する。
それを奏は満足そうに眺めている。
「あ、クーちゃんも欲しいの?」
といきなり奏が桜彩の方へと話を振る。
「い、いえ……私は……」
またも桜彩の顔が赤くなってしまう。
「だから奏、そのくらいにしておきなって」
困っている桜彩を見て蕾華が助け舟を出す。
「えー? だってさー、クーちゃんが興味深そうに見てたから」
「そ、そうでしょうか……?」
桜彩としては意識していなかったのだが、どうやら無意識に怜の写真に目が行っていたらしい。
「だーかーらー、奏、また渡良瀬さんがオーバーヒートしちゃうよ」
「あ、そだねー。ごめんごめん」
(宮前さん、怜の写真が欲しいんだ……)
可愛らしく舌を出しながら謝ってくる奏に桜彩は大丈夫だと答えながら胸の中に少しもやっとしたものを感じる。
(私も怜の写真、欲しいんだけどな……)
そんなことを言うことも出来ず、怜の写真を見る奏を少し羨ましそうに眺めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます