第86話  レッドとブルー ファイナルラスト

 都コンブが思った以上に小悪党だったので忍転道の本社がどこにあるのかわかりながら攻め込む事が出来ない私達。なので現状は忍転道が動くのを待つ1択になってしまった。


 ――そんなある日の平日。


 いつものファミレスに足を運ぶとやっぱりレッドとブルーが居た。

 もともと平日は会社で仕事をしているだけ、そんで土曜のミーティングは変わらないけど、最近は日曜も敵がいないのでミーティングしかしていない私達……。まあ、つまり何が言いたいのかというと、一般の人からしたらどうなのかわからないけど、私としては今の状況はじゅうぶん暇だったりする。

 なので暇潰しの一環としてレッドとブルーの会話を盗み聞きするのは吝かではなかった。……という言い訳を自分にしつつ私はいつもの席に腰を下ろした。そして――


 まず聴こえてきたのはレッド。

「ブルーよ。フト疑問に思ったのだが『抱き枕』はあるのに何故『抱かれる枕』はないのだ?」

「む? 言われてみれば……?」

「他にも『弱虫』という言葉はあるが『強虫』という言葉はない」

「ほほぉ……確かに『弱虫ペダル』はあっても『強虫ペダル』はありませんからな?」

 あってたまるか。

「だろう? 子供達なんかも『弱虫毛虫、挟んで捨てろ』と言ったりするが『強虫ハゲ虫、解き放てっ! さすれば与えられんっ!』と言ったりする子供はいないだろう?」

 いてたまるか。てゆーか今どきの子供達ってそれ言うの? 「泣き虫毛虫、挟んで捨てろ」とかじゃなかったっけ?


 っと私が疑問を抱いているとブルー。

「いやしかしレッド殿。そもそもとして全ての言葉に対義語、反対語がある訳ではないのでは? 例えば女子に人気のスイパラ――つまりスイーツパラダイスですが、対義語にあたるスイーツインフェルノ……という店は見た事がない」

 そりゃそーだ。てゆーかスイーツインフェルノってスイパラの対義語ってゆーより上位互換に聞こえるのは私だけ?

 としているけどレッドは会話を続ける。

「ああ、言われてみれば確かにその通りだ。食後のスイーツやスイーツ専門店という言葉は聞くが、食後のインフェルノやインフェルノ専門店という言葉は聞いた事がないな?」

 そっち!? なんでスイーツの対義語がインフェルノになってるの? 違くない?

 と思っていたのは私だけらしく、レッドやブルーは違くないらしいのでそのまま続けるレッド。

「そして女子はスイーツに走りがちだが男子……。男子は肉食系男子という言葉はあっても肉排泄系男子という対義語はない。因みに肉排泄ウンコ系男子と読むのだが……?」

 草食系男子でしょっ! 肉食系の対義語は草食系が既にあるじゃん! なんでムリにウンコ系にするかなクソレッドォ!?

「そしてそんなインフェルノ女子や肉排泄系男子でもやっていそうなパパ活や婚活……という言葉はあっても、パパさつ婚殺こんさつという言葉もない」

「ですな? 婚活パーティーはあっても、殺人鬼達による殺るか殺られるかのデスゲーム『婚殺パーティー』など開催されているのを見た事がないですからな?」

 それ主催者が1番ヤバイ奴でしょ婚殺パーティー……。B級映画にはありそうだけども……。

「因みにその婚殺パーティーに参加するには当然だがパーティードレスでなければならないのだろう?」

「左様。そしてパーティードレスの対義語ははだかパーティー……」

 そこはせめてパーティーじゃないの?

「なるほど? ならば男の場合は紳士服での参加なので対義語ならばはだか紳士か……」

 なんで急にそんな変態ちっくなパーティーになっちゃったかな? 参加してるヤツ軒並み裸の肉排泄系殺人鬼じゃん。やっぱ主催者が1番頭イカれてるでしょそのパーティー? まあ、実際には1ミリも開催されてないみたいだから良かったけど……。

 てゆーか改まって冷静に考えるとあんた達の理論だとエプロンドレスは裸エプロンだし、高級紳士服は高級裸紳士になるのね?


 という謎理論を展開していたレッド達だけど――

 レッド。

「しかしこうやって考えてみると、確かに対義語や反対語がない言葉とは以外と多いものだな?」

「そうですな? 逆に生どら焼きや生パウンドケーキに対しメカどら焼きやメカパウンドケーキみたいにわかり易い対義語の方が少ないのかもしれませんな?」

 いや『生』に対して『機械』や『人工』は確かに対義語でもあるんだけどメカパウンドケーキとメカどら焼きは違う。

「だな。『生メカしい』なんて言葉は対義語同士がくっついている珍しい言葉だしな?」

 だから違くない? なまめかしいって生メカしいじゃなくて『艶めかしい』でしょ?

「ほぅ? 生メカしいですか……これは勉強になりますな? しかし私もまだまだ勉強不足。これからも精進せねば……」

 と独り言のように呟くブルーに突然レッドが。

「勉強か……4日以上アフロになるなよ?」

 と急にワケわからん事を言い出した。まあ、レッドが突然ワケわからん事を言い出すのは今に始まった事じゃないんだけど、この言葉で私が頭に特大の疑問符を浮かべたのは事実として――


 ……?


 ――ッ! わかった三日坊主! 4日以上アフロの対義語が三日坊主って事か……ってアホかっ!!

 と私がアホな気付きにツッコミを入れているとブルー。

「はっはっはっ。そうですな……4日以上アフロを出来たら他人で他人を褒めたいですな」

 他人で他人を褒めるってあんたはどの立ち位置なのよっ! 寧ろいつもこいつらの面倒見てる私が自分で自分を褒めたいわ……。

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