第85話 実は小悪党?

「あのさ……考えてみたんだけど。もう忍転道に乗り込んで都こんぶや大混乱を倒しちゃってもよくない?」

 と。いつものミーティングののっけに意見してみたのは私だった。

「幹部の顔はこの間の動画で全員確認出来たし、居場所だってグレーちゃんが潜入してるから基地か本社かは知らないけどもうわかってるワケでしょ?」

 私がグレーちゃんに疑問の視線を投げかけると。

「あ、はい。居場所なら知ってますよ? ここからそう遠くないところに廃園になったUSJっていう遊園地? テーマパークでしたっけ? があったじゃないですか? その元テーマパークを買い取って、そこを改造して会社にしてますよ」

 え? 元とはいえ……

「近くにUSJなんてあったっけ? アレって大阪にあるんじゃないの?」

「いえいえ、それはユニバーサル・スタジオ・ジャパンの方ですよね? 忍転道が買い取ったのはユニバーサル・スタジオ・ジャップです」

 ユニバーサル・スタジオ・ジャップゥ!? それは廃園になって当然じゃないっ?

「う、うん。まあそれはいいとして。とりあえず敵のボスの顔も居場所ももうわかったワケだし。乗り込んじゃってもいいんじゃない? って話よ」

 っと。私としては至極真っ当な意見を言ったつもりだったけど、実際にはそうでもなかったらしく。

「そいつは無理だな」

 とレッド。

「そいつはカツアゲされた時に領収書をもらうのと同じくらい無理な話だ」

 なにカツアゲされたお金を会社の経費で落とそうとしてんの? そっちの方が無理でしょ? ……って、話じゃなくて。

「無理ってなんでよ? 今の私達じゃ勝てないって事?」

「いや、そういう話ではない。そうではなくて……今のところ忍転道を成敗する理由がない。俺達には大義名分がないという話だ」

 ……。

 ……。

 …………。

「はァ?」

 思わず変な声が出ちゃったけどレッドはそのまま続ける。

「良いか? 忍転道というか都こんぶは地球征服という名目でアルバイトこそ募集しているが、其の実何もやっていない。やった事と言えば動画の作成とアイドルのプロデュース、あとはUSAを改造して会社にしたくらいだ」

「USAを改造って、アメリカ改造して会社にしたらそれはもう地球征服を始めてるのよ……USAじゃなくてUSJでしょ?」

 しかしレッドは首を捻り。

「アメリカ? 何を言っているんだお前は? USAはアメリカの事ではなくユニバーサル・スタジオ・アフリカ在住のジャップの略だぞ?」

「結局ジャップッ!! そのテーマパークは日本人への侮蔑でもテーマにしているのっ!?」

 いやだからそんなのは置いといて。

「でもさ、あんたが今言った行動は確かにあくとは言い難いけど、忍転道がおかずファイブを襲撃してるのは事実じゃん。しかもいずれ私達を倒すとも宣言してるんだし、それなら私達が出ていってもおかしくはなくない?」

 と力説してみたけどレッドは首を左右に振り。

「それとて言っているだけで実際に俺達が襲われた訳ではなく、おかずファイブを襲撃したのも地球征服とは無関係で私闘、私怨だと言い張られたら俺達の出る幕はないぞ? それともお前はオランダ人の陰陽師がドイツ人の浮世絵師と殴り合いの喧嘩をして、勝った方を成敗しに行くとでもいうのか?」

 どんな文明開化が起きたらそんな和洋折衷が展開するの?

「まぁ……あんたの譬えは下手くそけど言いたい事はわかった。確かに第三者が簡単に私闘に口出しするべきじゃないし、ましてや正義のヒーローである私達が大義名分もないのに私闘に介入するのは逆に問題になるって事でしょ?」

 これにレッドは両腕を組むとウンウン頷き。

「そういう事だ。確かに決闘自体は犯罪で咎めるべきだが、俺達の場合は力があり過ぎるので私闘などに不用意に介入すると正義のヒーローが権力を私物化、包容力の私物化、そして粘着力のアニメ化と非難される可能性がある。だからおいそれと介入するべきではないのだ」

 まあ……私以外は全員権力を私物化するんじゃなくてそもそもが私物、自身の力なんだけどね。包容力と粘着力はなんの話か知らんけど。


 ……とか考えながら頬に汗を垂らしつつ。

「なんかそう考えると都こんぶって実は小悪党なのかもね? 要は今のところ正義のヒーローが出動しなきゃいけないほどの悪事を働いていないって事でしょ?」

「そういう事になるが――もしかしたらそれが奴等の作戦なのかもな?」

「どゆ事?」

「つまり奴等は地球征服の準備が整うギリギリまであさりのように大人しく、大それた事はせず。俺達ヒーローを出動させないようにする、もしくは動かれても申し開き出来るように計算して動いているのかもしれないという話だ」

 ま、まさかそんな! 

 っと考えているとグレーちゃん。

「あ、それは違いますね」

「なにっ!?」

「あさりのように大人しく……ではなく、しじみのように大人しく……ですね正確には」

「そうか……」

 そこおぅっ!? 訂正するところはそこなのぅ?

 ……と思うのはいつも通り私だけだったので話はそのまま進みグレーちゃん。

「まあ、忍転道の参謀であるダイコンさんは色んな意味で頭のキレる人なのでそうしている可能性は高いかな……と? なので今度出社した時にワザと悪事を働かないようにしているのか訊いてみますね?」

 あ、そっか。今ならグレーちゃんが相手の情報引き出してくれるんだっけ。


 ……という事で私達は現状こっちから打って出る事が出来ず、後のグレーちゃんの情報で忍転道がワザと地球征服を言い逃れ出来るように根回ししてやっている事が判明し――私達はまさかの忍転道の本格的な悪わるさ待ちという状態になったのでした。

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