第12話 大変な事が起きました

 それは先週の戦闘での事。


 いつも通り楽勝で敵の怪人を追い詰めていた私達だけど、中途半端に追い詰めたせいか敵の怪人が巨大化したのである。

 戦隊ヒーローで良くある最後に敵の怪人が巨大化するっていうアレだけど――ここで問題が起きた。


 ――そう。私達には巨大ロボットがなかった。


 そりゃそうだよね。ついこの間まで戦隊名すら決まってなかった私達にそんなモンがあるワケない。とりあえずその場はレッドがファイナルデッドマギカインパクトOHオーバーヒートを撃ったおかげで事なきを得たけど、やっぱり戦隊ヒーローとしてこの先巨大合体ロボットがないのはマズイ……というワケで今日もいつものファミレスでミーティングである。


「じゃあみんなに紹介するね。私の会社で開発部に所属している同期の『大納言だいなごん 小豆あずき』ちゃん」

 と言ったところで小豆ちゃんに視線で促すと、小豆ちゃんは静かに目礼。

「大納言小豆だ。ヨロシクな」

「みんな知ってるかもしれないけど、ちゃんと紹介した事ないから一応紹介しとくと――小豆ちゃんは私達がおかず戦隊ごはんですよに変身するためのアプリを開発した娘で、変身したあとのバトルスーツを造ったのも小豆ちゃんです」

 とここでレッドは小豆ちゃんに視線を向け。

「話には聞いている。会えて光栄だ。よろしくな博士」

「まあ……好きに呼んでもらって構わないが、一応言っておくが私は博士ではなくエンジニアだ」

 そういう細かい所こだわるよね小豆ちゃんて。


 私は小豆ちゃんも含め全員を一望すると。

「――というワケでわざわざエンジニアである小豆ちゃんを今日呼んだのは、私達にはなかった巨大合体ロボを造ってもらうため。当然小豆ちゃんにはもう了解はもらっているし、小豆ちゃんも完璧なものを仕上げてくれるって約束してくれたから、とりあえず今日はどういう巨大ロボにするかみんなで話し合いましょ?」

 皆が無言でウンウン頷く中で小豆ちゃんが軽く片手を上げ。

「先に言っておく。エンジニアの誇りに懸けてお前達のリクエストには極力応えるつもりだ。そして私自身作品にはこだわるタイプなのでクオリティーは保証するが――その分多少時間がかかるのは目を瞑ってくれ」

「ああ、それで構わない。こっちも現状ロボがなくて困っているワケではないからな。どうせなら博士がこだわり抜いた一級品を使いたい」

「ふふ。そうか……まあ期待していてくれ」

 そりゃま、あんたがF・D・M・I・OH撃ってりゃ別に巨大ロボいらんしね。


 ――と。

「ところで素朴な疑問なのですが費用や材料といった物はどうするので? 正直なところ我々には然したる財もなく、博士殿にお支払いする報酬もままならぬと思うのですが?」

 うん。これはブルーの言う通り。実は私もここの事情は詳しく知らない。――んだけど、小豆ちゃんが事前に「任せておけ」と言っていたからそのまま放っておいたんだけど……どうなってんだろ?

 と首を傾げていると小豆ちゃん。

「それなら心配は無用だ。まず私への報酬は不必要。私自身やりたくてやるだけだからな……言うなれば仕事ではなく趣味だ。そして材料だが必要そうなオリハルコンやアダマンチウムといった物は既に会社の経費で落としてある。その他の費用も全て会社の経費で賄えるから大丈夫だ」

 いやいやウチの会社経費で伝説の金属のオリハルコンとかアダマンチウム買えちゃうんだ……。てか天才とはいえ趣味の費用まで会社の経費を使っていいって小豆ちゃんに甘々だなウチの会社……まぁ今回に限っては助かってるけど。


「良し。では早速ロボの話に移ろう。先ずはコンセプトだが――お前達のコンセプトは食べ物だったな?」

「ああ」

 レッドが頷きながら応える。

「なら合体ロボもやはり食べ物でいくか? それとも他に何か望む物があるか?」

「いや、是非食べ物で頼む」

 ……是非なんだ。

「承知した。では順番に伺うが――時にレッド。お前のモチーフとなる食べ物は何だ?」

「うめぼしだ」

 途端に小豆ちゃんの表情が険しくなる。小豆ちゃんはアゴに手を当て小首を捻る。

「梅干しか……色は別として外見的には特長が薄いな……しかし1番の問題は外見よりもどうやってオリハルコンをすっぱくするかだな?」

 オリハルコンをすっぱくするっ!

「ちょ! 小豆ちゃんもしかしてこだわるって味にこだわるつもりっ?」

「当たり前だろう? 巨大可食ロボットともなれば味にこだわらず何にこだわるというのだ?」

「可食!? 大丈夫なのっ! 巨大怪人と戦うロボットなのに食べる事が出来るって不安過ぎるんだけど!」

 私が眼を引ん剝いて丸くしていると小豆ちゃんは不敵に口の端を釣り上げ。

「安心しろ。私は料理の腕も確かだ」

「味の心配してんじゃなくて装甲の心配してんのっ!」

 と小豆ちゃんにがなっていると。

「待ってくれ博士っ!」

 突然レッドが待ったをかける。

「香り……風味にもこだわって欲しいのだが?」

「任せろ!」

 お互いにサムズアップを交わすレッドと小豆ちゃんだけど、やっぱどう考えてもそこにこだわる必要はないと思う。

 んだけど小豆ちゃんは両手の拳を握り。

「うむ。創作意欲が湧いてキタ! どうせなら使う水に道具……包丁や鍋やまな板にもこだわるかっ! その方がいいっ!」

 鼻息を荒くしている小豆ちゃんだけど、それもう料理でしかないのよ。小豆ちゃんにとっては巨大ロボもキャラ弁の延長でしかないのね……。

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