22.ニワトリスと森を出た。ここはいったいどこなんだ

「主よ、森が切れたぞ」

「……あー、うん……」


 確かに視界が明るくなった気がする。大人の足で丸一日の距離も、羅羅ルオルオにかかればそれほど遠くもなかったらしい。そうだよな。けっこうなスピードで走ってきたもんな……。

 羅羅は森から顔を一度覗かせ、辺りをざっと見てからまた顔を引っ込めた。

 たぶん冒険者対策なんだろうなと思った。顔をずっと出していて狙われても困る。

 羅羅は魔物だから、森から出たら危険かもしれない。冒険者にならなきゃって思ってたけど、まず人が多くいる町に羅羅を連れていってもいいものなんだろうか?


「羅羅ってさ、こっちで人に攻撃されたりしたことはある?」

「いや? 逃げ惑われるのが普通だな。だが弓矢というのは厄介だ」

「そうだよね。だったら……俺とニワトリスたちで行った方がいいのかな?」

「主よ……シロ殿クロ殿も魔物ではないのか?」

「そうなんだよね~」


 そこがどうも悩ましい。ニワトリスたちと羅羅を従魔登録するには冒険者にならなければいけないのに、町に行かなければ登録できないのだ。小さい村ではそもそも冒険者ギルド自体がない。


「まぁ、とりあえず少し見てみるよ。近くに人の気配がなければ一緒に行ってもいいだろ?」

「承知した」


 森から出てはみたけれど雑草でいっぱいだった。それほど背が高い草ではないから離れたところからでも見えるは見えるだろう。

 ニワトリスたちと一緒に辺りを見回す。全然人がいそうな気配はなかった。


「この辺には森に入るところもないんだろうね。羅羅、草が切れるところまで行こう」


 雑草の高さを考えると、羅羅が一緒に行っても大丈夫そうだった。


「あいわかった」


 しっかし雑草が生い茂っていて歩きづらいことこの上ない。黄土色っぽい植物で、上にところどころ穂がついているようなものもある。


「あれ? これ大麦かな? でも畑じゃないよなー」


 畑ならもっと等間隔に植わっているはずだから野生の大麦かもしれない。どうせアイテムボックスにならたくさん入るしと、穂の部分を刈るだけ刈っていくことにした。


「……主よ。そんなことをしていたら日が暮れて夜が明けてしまうぞ」

「急ぐ旅でもないしさー」


 夜逃げをしたといっても森を約半月もかけて抜けてきたのだ。森は魔物たちの領域だし、食べられる物も多く生えてはいるけど毒を含む物も多い。俺がよっぽどの極悪人でもない限り、そんな森に入ってまで追いかけてくる奴はいないはずだ。


「……我は少しでも安心したいのだがな」


 羅羅が嘆息する。羅羅はけっこう心配性みたいだ。


「うーん、じゃあ……」


 麦わらだとストローとかは作れるけど紐とか縄作りには向かないんだよな。

 とりあえずそこらへんの草を編んで首輪のような物を作ってみた。余裕を持って首から少し下げるようにし、羅羅だけでなくシロちゃんとクロちゃんにも付けてもらった。これを見て俺が飼っていると認識してもらえたら助かる。


「まぁでも……相手が敵対してきたらシロちゃんクロちゃんに威嚇してもらえばいいのかな?」


 作ってから思い出した。もっと早く気づけばよかったけど、威嚇したらもっと面倒なことになるかもしれないから難しい。

 そんなこんなで人が歩くような道に出た時にはもう日が陰ってきていた。


「羅羅は夜目が効く?」

「問題ない」

「じゃあ夜のうちに移動した方がいいのかなぁ」


 道が全くわからないけど、この道を北か南に進んでいけば人里に着くかもしれない。


「森を抜けた後のことも聞いておくんだったー……」


 とりあえず森を出ればどうにかなると思ったのだ。だからといって今更聞きに戻るというのもいただけない。羅羅の背に乗っていけばそれほど時間はかからないかもしれないが、またあのスピードで走られたらと思うとうんざりしてしまう。


「ゴハンー」

「オトカー」


 だからクロちゃんや、俺は飯じゃないっての。


「そろそろ腹減ったよなー。じゃあそこらへんでごはんにしよっか」


 村の人たちにあらかた肉は解体してもらったから、羅羅とニワトリスたちにはそのままあげることができる。俺は、毒があるという魔物の肉を出して少しだけ切ってみた。そこらへんから拾ってきた石で竈を作ろうとしたら、羅羅が土魔法でやってくれるという。ありがたく小さい竈を作ってもらい、フライパンを置いた。乾いた木切れなどはクロちゃんが拾ってきてくれた。ありがたいことである。

 フライパンに油を少しだけひいて肉を焼く。

 辺りに香ばしい匂いが漂い始めた。


「えー? こんなにいい匂いがする肉なのに毒があるものなのか?」


 とても信じられない。おいしい毒キノコと一緒に炒め、塩を振りかけて食べようとしたら、ニワトリスと羅羅がすぐ近くにいた。その目は俺のフライパンに向けられている。


「えーっと……ちょっと待ってね」


 とりあえず俺が味見してからだ。

 毒があるという肉をパクリと食べてみる。


「んっ? 毒なんてないぞ?」


 もしかして、熱を加えると無害化するとかいうやつなんだろうか。肉の味は悪くない。毒キノコと一緒に食べたら、なんか毒キノコの毒の部分が薄まったように思えた。俺に毒は効かないけど、毒があるかどうかはわかるのだ。

 せっかくだから鑑定魔法を使ってみる。肉の方は、ポイズンオオカミの肉(正常)と出た。やっぱり毒はなくなったみたいだ。毒キノコの状態は毒のままだ。鑑定魔法では毒の程度についてはわからないらしい。でも食べたかんじ明らかに毒は薄まっている。

 しっかしこの肉、ポイズンオオカミのだったのか。まんまだな。


「この肉を焼いて一緒に食べると毒が薄まるのか。面白いなー」


そういう食べ物があるということを学んだ。とりあえず視線が痛いので毒があると言われた肉を出し、


「味見してみて」


 と一頭と二羽に出してみた。


「モットー」

「オトカー」

「これはうまい!」


 ねだられてしまった。だからクロちゃんや、俺のことは食べようとしないでおくれ。


「こんなにうまい獲物とは思わなんだ。シロ殿、是非狩りに行こうではないか!」


 羅羅が興奮して走り出していこうとしたので急いで羅羅の首にかけた紐を引っ張った。


「もう暗いから狩りはまた今度で!」

「主もうまそうに食べていたではないか!」

「それとこれとは別なの! まだ肉はたくさんあるんだから、僕が冒険者になってから!」

「……くっ……」


 くっ、じゃねえよ。

 とりあえずその魔物の肉は一頭分出してことなきを得た。

 はっきり言って頑丈な手綱が必要だと思ったのだった。



ーーーーー

また明日~

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