20.どうしても獲物を解体させたいニワトリスと、旅再び
青虎の
胸を張って戻ってきたシロちゃんに羅羅のことを聞いたら、「ルー、モリー」と答えてくれた。さすがにルオルオって発音はできないよな。ルーって呼び方、なんかかわいいな。
和んでいたらシロちゃんが、
「キルー」
と言い出した。
「え? 解体しろってこと? しないしない」
手を横に小刻みに振って断ったらつつかれた。
「いてっ、痛いっ! シロちゃんっ、暴力はんたいっ! もう暗いからっ、解体はあしたーっー!」
「ヤダー!」
「やだじゃないのっ! 暗いからっ、解体できないってばーっ!」
暗闇でもそれなりに見えるは見えるけど、解体できるほどじゃない。
シロちゃんはそうして何度も俺をつついたけど、俺ができないと何度も言ったことでつつくのを止めた。ふう、今回はかなりしつこかった。
「ケー、ナイー」
「え?」
「ルー、ケー、ナイナイー」
シロちゃんが身体を揺らしながら拗ねたように言う。ああもうかわいい。っていつまで経っても話が進まないっ。これはもううちのニワトリスがかわいすぎるのがいけないんだっ。
責任転嫁したって知られたらまたつつかれそう。
どうやら羅羅に脱毛させてからアイテムボックスにしまってきたらしい。だからすぐに解体できると思ったんだな。
「そっか、毛を抜いたのか。でも暗いから解体できないよ。こんな暗い中でやったら俺、怪我しちゃうよ?」
シロちゃんはショックを受けたような顔をした。
羅羅に獲物の毛をなくさせればすぐに解体できると思ったみたいだ。まぁニワトリス自身ではできないもんな。
「ケガー、ダメー」
シロちゃんが今度はいやいやをするように身体をゆすった。そうしてすりっと身体を寄せてくれる。ああもうかわいいなぁ!
「うん、俺も怪我したくないからね?」
しょんぼりするように頭を垂れるシロちゃんがかわいそかわいい。
村の人たちには明日解体の手伝いをしてもらえるよう頼み(当然だけど肉を少し分けるという話はした。タダ働きダメ絶対)、その日は大きな建物の隅っこで寝かせてもらった。うん、屋根があるって素晴らしいな。
見張りをするというクロちゃんに抱き着いて寝たから超快適だった。シロちゃんも寝る時はだっこさせてくれたりする。普段は嫌がるけど、うちのニワトリスたちはとにかくかわいいのだ。
おかげさまでよく寝た。
俺からほんの少し離れた場所に大きな卵が二つあった。
「お! シロちゃん、クロちゃんありがとなー」
うちの子たちの卵さえあれば生きていける。誰かに見られたら困るので急いでアイテムボックスにしまった。他のところで食べることにしよう。
起きて自分に浄化魔法をかけてすっきりしたところで建物を出てストレッチを始める。今日は移動しないとだし。
「おう、ボウズ起きたのか。メシ食うか?」
ひげ面のおじさんが通りかかって声をかけてきた。
「おはようございます。ごはん食べたいです」
「じゃあ声かけてきてやるよ」
「ありがとう~」
自分で朝ごはんを用意してもよかったが、いただけるものはもらっておこう。
ストレッチを続けていたら、村のおばさんたちが来ておかゆのようなものをくれた。ありがたい。
「昨日は魔物のお肉を分けてくれてありがとうね。とてもおいしかったわ~」
村で採れた野菜を煮た物なども差し出された。
「おいしかったならよかったです」
「今日もこれから解体なんですって?」
「ええ。数が多そうなのでお願いします」
おばさんたちに受け答えしながら、あまり味のない料理をいただいた。塩も貴重だからしょうがないのだ。
この辺ってやっぱ貧しいのかな。おかゆは粟粥だった。空腹は最大のスパイスって言うよね。まあまあおいしくいただけた。朝ごはんを食べたのか、大人たちが出てきた。
広場に集まってもらい、シロちゃんに昨日羅羅と共に狩ってきたという獲物を出してもらった。
「えー……」
村の人たちがあんぐりと口を開けている。
これって、この辺りの魔物を根こそぎしてきたんだろうなと思うような数が広場に積み上がった。シロちゃんがドヤッというように胸を張っている。
うん、まぁ……胸を張る理由もわかるけどな。全部毛がないのが異様と言えば異様だった。
「こりゃあ……」
「すげえな……」
「ええっとー……解体できるだけでいいので……昼ぐらいまででお願いできますか?」
さすがに全部解体しろとかそんな鬼なことは言わない。それに時間を区切らないとたいへんだろう。
「おう、任せとけ!」
固まっていたおじさんたちだったが、ハッとしたように獲物の方に近づき、豪快に解体し始めた。
「? おうボウズ、こりゃあたぶん食えねえぞ」
何頭か解体してから、ひげ面のおじさんが俺を手招きした。
「え? どれですか?」
「毛がねえから気づかなかったが、ほら」
「ええっ?」
そう言っておじさんが見せてくれたのは、震え始めている手だった。
「ど、どうしたんですか!?」
「これはおそらく食えねえ魔物だ。毛がねえから気づかなかったが、これは毛皮を取る為の魔物だな」
「えええええ。って、なんで震えてるんですかーっ!?」
「こ、この魔物には、しびれの毒があってな……食わなけりゃそれほど問題はないんだが……」
そう無理に笑おうとするおじさんに触れる。毒なら俺が解毒できるし。
「これは回収します。これと同じ顔をした魔物を教えてもらえますか? 全部回収しますので」
この魔物を狩る時は脱毛させちゃだめだな。そうだよな。毛皮が使える魔物もいるよな。それに、肉に毒が含まれる魔物だったら俺たちなら食えるだろうし。
「お? しびれが消えたぞ?」
おじさんが不思議そうに手をグーパーと動かした。
「治ってよかったです。落ち着いたらお願いします」
ってことで魔物の特徴などを教えてもらい、肉をそれなりに分けた。シロちゃんとクロちゃんはこれでもかと肉を食った。みんな引くぐらい食ってたから、よっぽど楽しみにしてたんだろうなと苦笑した。
そして、ここから西に歩いて一日向かうと森を抜けるということを教えてもらった。
「もう行ってしまうのか」
ハゲのおじいさんが残念そうに言う。
「お世話になりました」
俺の前にはシロちゃん、横にはクロちゃんがいる。
「ボウズ、気を付けていくんだぞ。ニワトリスは魔物だから警戒されることもあるだろう。早いとこ冒険者ギルドへ行って、冒険者証をもらった方がいい。そうすればそのニワトリスたちも従魔として登録できるだろうしな」
ひげ面のおじさんにいろいろ教えてもらって助かった。
「ありがとうございました!」
「こっちこそ、肉ありがとなー」
「ありがとー!」
村人たちに見送られて、俺はニワトリスたちと森に入る。ここから更に西へ大人の足で一日だったか。俺の足だとどれぐらいかかるんだろうか。
しばらく歩いていたら羅羅が現れた。これからはこのメンバーで行くのだ。
「羅羅、よろしくな」
「うむ、主よ。よろしく頼む」
意志の疎通ができるというのは素晴らしい。
そうして俺らは西へ向かっていくのだった。
ーーーーー
今日は更新できたらもう一話上げます。書けなかったらすみません(汗
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