19.ニワトリスが舎弟を得て胃が痛くなる俺
村人たちの状態を鑑定魔法で確認して、ハゲの人たちには一通り触っておいた。
それで状態は脱毛から正常になったから、いずれまた生えてくるだろう。
「たぶんまた生えてくると思います」
「それならいいのだがのう……さすがに眉もまつげもないとなるといろいろたいへんでなぁ」
「ああー……」
眉はともかくまつげがなくなるのは確かにたいへんな気がする。まつげは目を守る効果もあるはずだからだ。
そこまでなくなっていたから、彼らの顔に違和感があったんだなと納得した。
青虎の羅羅は申し訳なさそうに身体を縮めている。
なんでここの村人を脱毛したのかと聞いたら、
羅羅は脱毛する以外だと己の身体強化や感知、そして暗視魔法が使える。他には土魔法が使えるそうだ。爪は鋭いし牙もでかくて鋭利だ。脅すにしても怪我をさせてはいけないと羅羅も思ったらしい。そう考えると魔物にしては穏やかなのだなと思った。
まぁ全ての魔物が人間を見かけたら何がなんでも殺すべし、ってわけじゃないけど。魔物なんて定義は勝手に人がしたものだし。
やり方として、精神にダメージを負わせるには十分だけど……。
「……世話になった。本当にすまないことをした」
羅羅はボアの内臓や肉を食べるとのっそりと立ち上がり、村人たちに頭を深く下げて謝罪した。
「いえ……そんな……」
「毛は生えるのかのぅ……」
被害がなかった人たちは恐縮していたが、実際被害に遭った人たちからすると複雑な心境のようだ。
いくら村人たちに怪我をさせない為だとしても、毛もまた重要なのである。確かに人間は他の動物たちのように毛がないと死活問題という程ではないかもしれないが、頭髪はとても大事だ。何故まだ10歳である俺がそんなことを力説しているのかというと、俺の前世の記憶は43歳なのだ。前の生え際が後退してきている気がする……とちょうど気になってきたお年頃であった。その為、ハゲには反応してしまうのである。きっとみんなもわかってくれるはずだ。(いったい俺は誰に話しかけているのか)
「あのー……すみません。こんな時になんですけど、一晩泊めてもらうことってできますか?」
「うむ、少年とニワトリスたちは何晩泊っていってくれてもよいぞ」
おじいさんが言う。
俺とニワトリスたちかぁ……羅羅も休ませてもらえると助かるんだけど、さすがにそういうわけにはいかないよな。
羅羅は納得したように頷くと、
「主よ。我はこの村の周りにおる故、村を出る際は呼んでくれ。我はこの辺りで獲物を獲ってこよう」
と言った。それはそれで助かるけど……と思った時、それまで大人しくしていてくれたシロちゃんとクロちゃんの目がキラーンと光った。
獲物、と聞いて反応したようである。
「ゴハンー」
「オトカー」
クロちゃんや、俺は飯じゃないぞ。
「うん? 主に獲物を捕ってくればよいのか? そうすると捌いてくれる? いいことを聞いた。では獲ってくるとしよう」
「え? なんで今の会話だけで通じてんの?」
俺はニワトリスたちと羅羅を交互に見た。
「カルー」
シロちゃんが羅羅の前に進み出た。
「えっ? シロちゃん?」
「では共に参ろうぞ」
「えええええ!?」
俺が驚愕の声を上げている間に、羅羅とシロちゃんは村の柵を軽々と飛び越え、ツッタカターと走っていってしまった。一応村の柵ってさぁ、2mぐらいあるんだけどなぁ……。
「……クロちゃん、どゆこと?」
俺は茫然と一頭と一羽を見送った後、俺の横にいるクロちゃんに尋ねた。
クロちゃんはコキャッと首を傾げた。かわいい。
っていや、そこで俺も和んでないで?
「クロちゃん」
もう一度声をかけると、今度は反対側にコキャッと首を傾げる。あんまりかわいいとぎゅうぎゅうするぞこら。
「ンー……エモノー、カルー」
「うん」
「シロ、モツー?」
モツって内臓のことか? いや、多分違うな。ってことは、「持つ」か。
ああ、と合点がいった。
羅羅が獲物を狩って、シロちゃんがそれをアイテムボックスにしまって持ってくるってことか。
「そっかそっか……って、えええー?」
もしや、この辺りの魔物を全て根絶やしにしてくるつもりじゃあるまいな?
背筋をツツーと冷や汗が伝うのを感じた。
頼むからほどほどにしてほしい。
そうして、シロちゃんは暗くなるまで戻ってこなかった。
その間俺は村の人たちに歓待されていたけど、なんだかもう生きた心地がしなかった。
クロちゃんはご機嫌で俺に寄り添っている。時々すりすりしてくれるからもうかわいいのなんのって! だからそうじゃない。そうじゃないんだ。クロちゃんは俺を篭絡しようとしているのか。恐ろしい子っ!(落ち着け俺)
「あのー……この村の人たちってこの辺りの魔物を狩ったりはするんでしょうか?」
「小さい魔物なら狩ったりもするが……あまり積極的には狩らないぞ。危険だからな」
ひげ面のおじさんが教えてくれた。
「じゃあ肉とかはどうしてるんですか?」
「家畜がいるにはいる。冬になる前に潰して、そんで食べちまうな。ボアの肉なんて本当に久しぶりだ。そもそもこんなに肉を食べたのは久しぶりなんだ。ボウズ、ありがとな」
ひげ面のおじさんはそう言うとニカッと笑った。
積極的に狩ってないならいいかと思ったけど、一応そのおじさん以外の人にも話を聞き、俺は胸を撫でおろしたのだった。
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ストックが尽きてきたので明日以降は一日一話更新になるかもしれません。
よろしくお願いします。
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