第23話
「お騒がせする形となり、申し訳ありません」
まさかこんなところに皇財閥のトップがいるとは思わなかった俺たちは誰もが開いた口がふさがらなくなる。
「ははは、そんなに緊張しなくてもいいよ。みんなせっかく勉強をするために来てくれたんだろう。なあ」
「そうです。父のご紹介は終わったことですし、勉強を再開しましょう」
半ば強制に勉強をするようにみんなが机へと向かい始める。
「いや~まさかあそこまで驚かれるとはね」
当の本人は帰ることもなくまた俺の席の前に腰を下ろす。
「あの」
「なんだい?」
「先ほどは伊豆川さんとおっしゃっていたのですが…」
「ああ、あれは僕の旧姓だよ。まだ名乗らない方が面白いかなと思ってね。それと薫君は僕の親友の子供なんだからそんなにかしこまらなくても気軽に優さんと呼んでいいんだよ」
「はい」
(この人、行動原理が面白いかどうかで判断してないか?)
話していけばいくほど優さんの印象が変わっていく。
「もしかして、南条君はお父様とお知り合いだったのですか」
「いや、俺じゃなくて、俺の父親と交流があるらしい」
「そうだったのですね」
予想外のつながりに皇さんは驚きの声を上げる。
俺達の会話を優さんはニマニマとしながら見ている。
「な、なんですか」
「いやね、娘にもこんなに仲のいい友達ができて父として嬉しいよ」
「や、やめてください!」
皇さんはカーッと顔を赤くして俺たちのテーブルから離れていく。
それはいつもの冷静でお嬢様らしい彼女からは想像できない年相応の女の子の反応に思えた。
(あんな一面もあるんだな)
「桜華の様子がいつもと違ってがっかりしたかい?」
俺は心を読まれたような言葉にドキリとする。
「いえ、確かに驚きはしましたが、どちらも皇さんであることに変わりはないので」
「フフフ」
「なにか可笑しかったですか?」
「普通の人はね、自分の持つイメージとあまりにかけ離れていたら距離を取ったり、印象が悪くなったりするものだよ」
「そうですかね」
「薫君も僕のキャラがあまりに違ってただろう」
「ええまあ、、、ですけどそれで僕のなかでマイナスになることはないですよ」
「それがたとえ周りと違ったとしてもかい?」
「はい、周りが正解とは限りませんし、イメージと違ったっていうだけで態度を変えることはしませんよ」
「はははっ。薫君は本当にヒカルに似ているね」
「そうですかね」
「ああ、君のお父さんも僕がほかの人が見て見ぬふりする人が多いのに行動したことに対して肯定してくれる人だよ。周りに流されず自分が大切だと思うことは大事にしたらいいよ」
「…はい」
なんだか重い話になってしまったな。
でもまさかこんなところにつながりがあるとは。今も俺の前にあの皇財閥のトップがいるわけだし。
…ん?
(もしかして今がチャンスなのでは?)
そう、俺が皇さんの探している人だということを。
(そうだよ、今なら確実に信じてもらえるだろうし、すぐにおか…彼女にも信じてもらえるしな)
今度こそ後悔しないために口を開く。
「あの、皇さんの」
「薫君は桜華が人を探していることは知っているかな?」
優さんに遮られてしまう。
「はい、本屋の近くの路地裏でガラの悪い男たちに絡まれていたところを助けられたんでしたよね」
「…そうだね。桜華がその男を探すのになぜあんなに一生懸命かはわかるかい?」
「いえ」
「桜華はあの時に始め誰も助けてくれないことに恐怖を覚えたそうだよ。それはそうだよね。皇財閥のお嬢様として知られているときはどんな人でも助けてくれていたんだ。それが誰も知らないとなると誰もが傍観者となる。だが、そんな中で、お嬢様だということもつゆ知らずに助けたとなれば彼女の中ではその存在が大きかったんだろう。ぜひとも感謝したいそうだ」
(なるほど)
俺はなぜあそこまで彼女が必至なのか少しわかった気がする。
(初めてお嬢様としてではなくただの一人として扱われたんだったら印象にも残るんだろうな……)
「だからパーテイーを開いてまで確認しようとしてるんですね」
「そうだ。それに僕も大切な娘を助けてくれた人にはお礼がしたいんだ。桜華が言うにはおそらく高校生のようだし一校目で見つかるといいんだが…」
優さんは困り顔になる。
(お?ちょうどいいんじゃないか)
「あの、それお」
「けれど、父の僕からしたらそこまで本気にならなくてもいいと思うんだけど」
またもさえぎられる。
(わざとなの?!)
「確かに僕も見つけたいがそのために娘が見つかるまで転校を続けるというのがどうもね」
「え?転校?」
「まだ聞いてなかったかい?桜華は確認のためのパーティーでみつからなかったらほかの高校に転校するんだ。僕は見つからなかったとしても今の高校のままでいいと思うけどね」
「それはどうしてですか?」
「今の高校に転校してから普通の友達ができたって喜んでいたよ」
「それはよかったですね」
(百合や早稲栗のことを言ってるんだろうな)
「薫君も入ってるよ」
「僕ですか」
「ああ。桜華は薫君のことを一番最初にできた友達だと僕に言ってきてそれで君がヒカルの子供だということもわかったんだ」
「さいしょの…」
「薫君は敬語も使わず身分なんて気にしなくて話してくれるって。ついに普通の友達ができたって」
「そうですか」
「娘の友達になってくれて本当にありがとう」
優さんは頭を下げる。
「顔を上げてください。僕の方こそこれからも皇さんと友達をやっていくつもりです」
「それはよかった、、、。ところで何か言おうとしてなかったかい?」
「…あー…、何でもないです」
(今は言わなくてもいいかな…)
「今日は教えてくださりありがとうございます」
「こちらこそ、有意義な時間だったよ」
長いこと話していた俺たちは周りを見るとみんなキリがよさそうだったので今日はこれで終わりとなった。
俺達は大広間から出ていく。
(途中から勉強はしてなかったな)
今日の勉強会を振り返る。
(まあ、スピーキングは大丈夫だし英語はもう大丈夫だろ)
「父がご迷惑をかけてすみません。ちゃんと勉強できましたか」
皇さんが隣に来て心配そうになる。
「迷惑だなんて。すごく分かりやすく教えてもらえたよ」
「それならいいのですが…」
どこか納得いかない様子だ。
「勉強だけじゃなしにいろんな話が聞けて面白かったしね」
「どんな話ですか?」
「う~ん、秘密」
「教えてくださいよ」
少しすね気味な顔になる。
(なるほど、優さんが言っていたのはこういう一面か)
「なんですか?」
俺の視線に気づく。
「いや、かわいいなって思ってさ」
「かっ…」
彼女は言葉も絶え絶えに早歩きで前に行ってしまった。
「うわ~~~、よくあんなせりふが言えるな」
「なにが?」
「かわいいだよ」
「あー、だが皇さんも言われなれてるだろ」
「それはそうかもしれないが…」
「なら問題ないだろ。実際かわいいんだし」
「ええそうね、桜華さんかわいいもんね」
悠馬と会話していると百合が会話に参加してくる。
その顔は見るからに不機嫌になっている。
「何か言いたそうだな」
「別に。そういえば薫って意外とバカというか単純というか」
「ひどい言われようだな!」
「ほめてるのよ」
「どこがだよ…」
「英語はもう大丈夫そうね。スピーキングも見違えるようにうまくなってたし」
「ん?ああ」
百合も近くから俺の練習を見ていたのだろう。なにかと彼女は面倒見がいいからな。
「ありがとうな」
「明日がテストなんだから気を抜かないようにね」
「ああ」
家につくなりベッドへダイブする。
「疲れた~~~」
今日はいろいろあったからな。
まあ、まだ言えてはいないが…。
それは置いといて明日は遠足の行方を決めるテストがあるので俺は夕食やお風呂を済ませて早めに寝ることにする。
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