1-23 精霊たちの攻撃
「地揺れか!?」
レイヴナーがはっと目を覚ましたように叫んだ。
「外だよ!」
タオルが窓に走り寄って言った。
香菜が窓を見上げると、格子に向かって「何か」が激突した。
塔が大きく揺れる。
「精霊です!」
パレットが部屋の隅でがたがた震えながら言った。
「何十年もこの階には精霊が来なかったと聞いていたのに……!」
「タオル、レイヴナー、魔法で撃退できない?」
香菜が叫ぶと、「任せて!」と言って、タオルが窓に向かって魔法を放った。
格子が吹っ飛んで、ギャーと精霊の鳴き声がこだまする。
「くそっ!」
レイヴナーも別の窓に駆け寄って、精霊に攻撃魔法を放つ。
一瞬、壊れた格子窓から精霊が入り込みそうになったのを香菜は見た。
顔はないが、燃えるような恐ろしい表情。形は光とも風ともつかない。ただただ、怒りに満ちている。
タオルが魔法を放って、入り込むのを阻止した。
「数が多くて限りがないよ! このままじゃ!」
タオルがわめいた。
「精霊は恐怖に弱い。攻撃を続けろ! ぐあっ」
レイヴナーが精霊の攻撃を受けて、香菜たちの近くまで吹っ飛んだ。
まずい。
「私も加勢しなきゃ!」
立ち上がろうとした香菜を、鼻血を流したレイヴナーが手で制する。
「役立たずは黙って見ていろ。僕がなんとかする」
「でも!」
「お前の水の魔法が何の役に立つ? いいから隠れてろ!」
レイヴナーが手に魔力を込めて、窓に駆け寄った。
どうする。どうしたらいい。このままじゃ、精霊たちが塔に侵入してしまう。
頭を回転させた香菜は、ふと震えているパレットの存在を思い出した。
「パレット!」
「ひいいっ」
「パレット、聞いて! あなたは何の魔法を使える? もしかしたら、精霊を撃退できるかもしれないわ」
「無理、無理です。あたしの魔法はこの塔では全く役に立たないんです……」
「いいから教えて!」
パレットは震える指の隙間から香菜を見た。
「あ、あたしの魔法は水を鏡にする魔法です……。でも、この塔には水がないので……」
「パレット! でかしたわ」
香菜は無理やりパレットを立ち上がらせると、窓を睨んだ。
「いい? 私が合図したら魔法を放って」
「でも、水なんてこの塔には……」
「いいから。タオル、ちょっとそこどいて! 行くわよ、【アキュアス】」
驚いて体を翻すタオルの頭上を、水流が飛んだ。
「おい、お前は下がっていろと……」
レイヴナーを無視して、香菜は叫ぶ。
「今よ、パレット!」
「ミ、ミ、【ミラード】!」
窓から飛び出した水の塊が、放射状に凍りつき、光を反射した。
ギャー、と精霊たちの鳴き声がして、泡がはじけるように消えていく。
塔の揺れが止まった。
「た、倒した……?」
タオルが尻もちをついたまま言った。
レイヴナーが眉間にしわを寄せて、窓から生えるように突き出した鏡の塊に触れた。
「いや、追い払っただけだ。精霊の原動力は怒り。弱点は恐怖だ。鏡に映った自分たちの姿を見て、恐れおののいて逃げたというところだろう。カナ、今回はうまくいったからいいものの、お前作戦が失敗したらどうするつもりだった?」
レイヴナーは香菜を見下ろしてぎょっとした。
香菜は完全に腰を抜かしていた。
「こ、怖かったあ。ただ私は、鏡が精霊に突き刺さればいいと思って……」
「精霊には肉体がない。物理攻撃はほとんど効かない。まったく……何度も今回のようにうまくいくわけではないと思え」
香菜はこくこくとうなずいた。
高所恐怖症の姫、高層階に幽閉される ぬるま湯労働組合 @trytri
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