「夢」の話

金縛り

中学生時代にバスケ部に所属していたヨシトさんは、2年生だったその日、大会が近かった事もあり練習が終わると動けないくらいヘトヘトな状態で帰宅した。


疲れた体のまま、夜ご飯を食べてお風呂に入り、もちろん宿題なんかできる体力もなく、なんとかベッドに入った。


ベッドに入ってウトウトしていると異変を感じた。腕が動かないのだ。


「あれ、おかしいな」


寝返りを打とうとするが、足も体も動かない。目も開かない。疲れ過ぎて本当に動けなくなったのかと思ったが、疲れとはちょっと違う感覚、例えるなら何かが上に乗っているようだった。


「あれ、もしかしてこれ、金縛りか?」


そう思った瞬間、上に乗っている何かがズンと少し重くなった。


「やばい、やばい」


少しずつ重くなるその何かは、ヨシトさんの上で揺れるようにジタバタ動く。抵抗しようと手足に力を入れていると、フッと、右手だけが少し軽くなった。


動く。これなら


ヨシトさんは上に乗っている何かを振り払おうとした。動かせるようになった右手をガッと自分の体の上に振り上げたその時


ぎゅっ


右手に何かを強く掴んだ感触があった。生き物の手足のような生温かい感触。


なんだこれ…?


思わず手を離した瞬間、金縛りは解け、目も開く事ができた。



初めての心霊現象に興奮したヨシトさんは、次の日、意気揚々とクラスメイト達に金縛りの話をした。「昨日、幽霊を掴んじゃったんだよー」「金縛りなんて初めてでさー」とひと盛り上がりした。



翌日、ヨシトさんは友人から、同級生の松永さんがヨシトさんと同じ日に金縛りにあったという話を聞かされた。松永さんは同じクラスの陸上部の女子、今までヨシトさんは彼女を特に意識してはなかったが、思わぬ共通点に金縛り仲間だと勝手に親近感を覚えた。


それから何となくだが、ヨシトさんは松永さんを目で追うようになっていた。「松永さん、あの子と仲いいんだー」とか「黒板に書いた文字、上手いなー」とか「足首に包帯巻いてるな、怪我かなー」とか、思ったりした。



その数日後、たまたま図書館で松永さんと一緒になり、金縛りの話を聞く事ができた。


松永さんも部活で疲れて帰ったその日、金縛りにあったそうだ。ただ、ヨシトさんの体験のように何かが乗っかってくるというものとは違って、何かがまとわりついてくるといった感覚だった。


まとわりつく何かをふりほどこうともがいてると突然、ガッと足首を掴まれた感触があった。怖くて必死に足をバタバタしていると足首を掴まれた感触がなくなり、金縛りも解けた。


「でね」


松永さんはスカートの裾を少し上げた。足首に巻いた包帯をおもむろにほどくと、ヨシトさんに見せる。


「これがその「何か」に掴まれた跡なの」


足首にはアザがあった。手の跡のように見えた。それはちょうどヨシトさんの手の大きさくらいだった。


「友達からヨシトくんの金縛りの話を聞いた時に思ったんだよね。もしかして『何か』って、ヨシトくんなんじゃないかって」


金縛りの時に手足のようなものを掴んだ感触、あれは松永さんの足首だったのか?上に乗ってたのは生霊?そして、彼女にまとわりついていたのはヨシトさんの生霊だったのだろうか?それは今となってはわからない。



ちなみに、それからしばらくはヨシトさんは松永さんと金縛りの話で盛り上がったが、特に男女の仲になる事もなく、仲の良い友達で終わったそうだ。

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