場面[2/6]

ナレーター: そのころ、イスラエルには大事件が起こっていました。

       地中海のはるか西方、イタリア半島に起こったローマ帝国が、イスラエルに攻めて来たのです。

       装備の優秀なローマ軍の攻撃に、イスラエルはあっと言う間に征服されてしまいました。


ナレーター: ローマ人は、頭の良い民族でした。イスラエルを征服しても、人々を奴隷にして「さあ働け働け」と鞭打ったりはしないで、「君と僕らは仲間だよ。さあ仲よくしましょう」というやりかたをしました。

       つまり、イスラエルにはヘロデという王様がいました。ローマ人は、このヘロデ王に王様を続けさせて、そうして、イスラエルから税金を取り立てさせたのです。

       だから、普通の人たちは大変です。税金をヘロデ王に納めて、その上さらに、ローマ帝国に納めなければならないのです。

       こうした苦しい暮らしの中でイスラエルの人々は、いつの日か必ず救世主が現れて自分たちを救ってくれるのだと信じるようになったのでした。


ナレーター: さて、時のローマ皇帝アウグストスは、かの英雄ユリウス・カエサルの養子です。

       世界中を支配におさめたアウグストス皇帝は、全国の戸籍をつくる大命令を出しました。

       今で言う国勢調査ですね。

       ただし、当時の住民登録は、現代とは違って、その人の生まれた土地で行うことになっていました。

       同じ命令がイスラエルにも出されて、ヨセフさんはマリアさんに相談しました。そのころにはマリアさんのおなかは、こんなふうに、すっかり大きくなっていたのです。


ヨセフ  :「さあて、どうしようか。俺はこの村の生まれでないから、故郷のベツレヘムまで行ってこなくちゃなんねえんだろうなあ。で、お産の予定日までには帰るとして、それまで大丈夫かな、おめえ一人で」

マリア  :「えー、やだやだ! あたしも一緒に行くよお」

ヨセフ  :「行くったって、おめえ、泊りがけの旅行なんだぜ。何かあったらどおすんだよ」

マリア  :「だって、だって、妻は夫の籍に入るんでしょう。だったら、あたしも行かなくちゃいけないんじゃあない? それに、とにかく、今あたしを一人になんかしないでよお」


ナレーター: マリアさん、別に甘えている訳ではないのですよ。ただ、初めてのお産をひかえて不安なだけなのです。

       で、不安といえばヨセフさんだって負けず劣らず不安ですから、結局、二人で出掛けることになったのでした。

       ちなみに今の国勢調査は、その時に住んでいた場所で行いますよね。だから、こんなふうに旅行する必要はないのです。

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