修羅場
最強のエスパーが一人で住んでいる小さな星に来てから、十二日後の事だ。
ようやく、岩大根の収穫をし終える事ができたぼくが、身体を引きずって最強のエスパーに報告しに家へと入った時だった。
ただならぬ雰囲気だったんだ。
まさに一触即発ではないかと危機感を抱くくらい、険しい顔で対峙していたのだ。最強のエスパーと、最強のエスパーが呼んで来てもらった二五四が。
もしやこれは修羅場というやつでは。
収穫を全部終わらせられた事が嬉しくてついついノックをし忘れて、勢いよく応接間の扉を開けた事をひどく後悔しながら、そっと押した扉を引いて閉めようとしたその瞬間。
二五四に睨まれたぼくはまさに、蛇に睨まれた蛙だ。
ドアノブを掴んだまま、微動だにできなかった。
二五四の殺気、気迫だけではなくて、もしかして超能力を使われているのかもしれない。
その証拠に、あんた誰と、二五四に尋ねられた時に、口だけが自由に動かす事ができたからだ。
やっぱり超能力で口以外は動かす事ができないようにさせられているんだ。
「最強のエスパーに超能力の指南を受けている者です」
まあ、初対面で自己紹介したけど。
ついさっきのはずだけど。
まあ、いいけど。
「ああ。そういえば、会ったんだっけ?」
「ええ、まあ」
「そうね。すっかり忘れていた。けど。こいつに指南を受けても無駄よ。こいつは最強のエスパーじゃないもの」
「え!?」
「最強のエスパーをマトリクスコピーしているニセモノ最強エスパーよ」
「えええ!?じゃ。じゃあ!最強のエスパーはどこに?ここは。最強のエスパーが住んでいる星ではないんですか?」
「いいえ。最強のエスパーが住んでいる星………のはずだけど。超能力で認識を変えているのかもしれない。実は違う場所かも。いえ、もしかしたらこいつ作り出した幻覚の中にいるのかも。あの方をマトリクスコピーできるくらいだもの。並大抵のエスパーじゃないはず」
二五四とぼくは、最強のエスパー、ではなくて、最強のエスパーのニセモノを無言で睨みつけた。
最強のエスパーもぼくと二五四を無言で睨みつけてから、言った。
いや、尋ねたんだ。
「え、私は最強のエスパーではないのかい?」
「「え?」」
(2024.1.26)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます