第23話

 俺は男と共にマルカートに取り残され、気まずく見合っていた。

 すると相手の方から話しかけてくれ、俺もにこやかに答えることができた。


 男は名前を「シャンル」というらしい。

 シャンルが。スリーウォーリーは、地上で誰でもわかるほど有名なドラゴンで、どうやら5本指に入るくらい強い冒険者でも歯が立たない魔物らしい。


 俺の記憶上、スリーウォーリー?は、少し強めに蹴りを入れたら壁にぶつかり、なんとかたち直した後に胸を張りながら「ははは!今度は強くなってくるぞ!」と捨て台詞を吐いて帰って行っただけのやつだったのだが、それでもそのくらいなのか。

 と思った俺は、じゃあ俺は?と次になり、自分が怖くなった。


「……で、そのモンスターの頂点に立つのが、あんたの言ってるエデンだ……って聞いてるか?」

「はぁ……んあ?ああ聞いてた。エデンのことだろ」


 彼の話は思考しながらでも、耳が向いているのでちゃんと聞き取ることはできる。

 

「そうだ、もっとエデンについて教えてくれないか。」

「うん、わかった。」


 シャンルはそういうと座り込み、剣を右に置いた。


 なんとか敵意は解いてくれたそうだ。


「……話すには約束、じゃなくて条件がいる。」

「条件?モンスターってそういうのあるんだ」

「俺は頭がいいからな!」

「ははは、そりゃそうか。」


 しゃべれる時点でほかの魔物とは格が違うのだよ。と訴えるように胸を張り鼻息を吹いた。

 シャンルは笑ってくれて、俺もなんだか気分がいい。


「条件は、魔力とかを測れる装置を貸してほしい。あるって聞いたし、やってみたい」

「げ……そんな高いものか……アイツら、たぶんこっちに来ると思うし、アイツらに聞いてみよう。それか、俺らがあっち行くか?」

「あっち行っても良いけど、たぶんやめた方が良いと思う。あの獣人に迷惑かけそう。」


 なんとなくだが、獣人には最初から俺に気づいている感じがする。近づく意思も無いし、それを感じ取ったからあんなに余裕なのだろう。

 

 だからたぶん、彼に近づいたら、彼の方がつぶれてしまうだろう。


「なんでた?」

「なんとなく、としか」

「おまえら!」


 俺らが顔を合わせていると、マルカートがこちらにまた走ってきた。後ろに残りの二人を引き連れている。俺は離れようと思ったが、獣人におかしな様子は無いので、とりあえず居るだけで影響が無いことは安心した。


 獣人は名前を「カイ」というらしく、ボディビルダーのような筋肉質な体は、近くで見るととても大きく見えた。

 

 もう一人の女性の方は名前を「ルイス」と言うらしく、その腰にはやはり、あの大きな宝石がついた剣があった。


「かっこいいなその剣」

「ありがとう、君見る目がいいね」

「ミスリルっていう鉱石の剣なんだ。ドラゴンの首を切ったって言われるほどなんだって」

「へぇ~」


 彼女は剣を引き抜き、胸を張りながら前に構えてくれた。


 その光輝く剣は青く、透明感があった。

 つい触りたくなり手を伸ばすが、失礼だと思いすぐにもう片方の手で引っ張った。


「触りたいか?触って良いぞ、だけど少しだけな。」

「やった!」


 俺は言われた通り指先を少しだけさわった。

 固い石の感触と共に、魔力が一部吸い取られたような感触がした。

 その影響か、剣が眩しく光始めた。


「わぁ!?」

「な、なんだこれ?!」

「おえええええっ!」

「カイィィィィ!」


 やっぱり魔力だったのか、その光にカイが一瞬でやられ、吐き散らした後に転がり、「痛い痛い!」と叫んで転げ回っていた。

 それで無事に、何体かモンスターがこちらを覗いてくるが、それ以上は近づいてくることはなかった。


「モンスターに囲まれてるな」


 マルカートも察知してるのか、警戒しながらカイの介護をしていた。

 ルイスは剣を持っているので限界なようで、持っている剣が震えていた。少し慌てふためいた後、なぜか俺に剣を差し出してきた。

 

「お、おい!どうすれば良いんだこれ!?」

「どうしろって言われても、とりあえず……貸して!」

「モンスターに武器を貸すのか?!ダメだ!慣れてないと持てるわけがない!」


 マルカートが慌てて止めにはいる。

 俺に剣を渡したくせに、と憎らしく思ったが、確かに武器の距離感がわからず斬ってしまいそうだ、と考えがあってやめた。

 

「じゃあ、カイ持てる?」

「無理だ……吐きすぎて血が出そうだ……ゲボォッ」

「死にかけてるよぉー!」


 他に持てそうなのは……いない。

 結局俺が持つしかないのか。

 俺は光輝く剣を掴んで奪い、手を怪我してないかを一瞬見て確認すると、何メートルか離れてから剣を剣道の授業を思い出しながら構えた。

 予想より軽く、少し右足を前に出して体重をそちらに押す。


 剣から力が込み上げてくる用な魔力のぞわぞわとした感覚が、腕からからだ全体にになぞるように広がっていく。

 魔力制御もやりやすくなり、どうにかなりそうだ。


「これなら……」


 敵を一掃できそうだ。

 俺はパーティーの方を向いて、言った。

 

「敵をやっつけたら、肉をくれ!」

「肉?そんなのたっぷりあるよ!たんまり食え!」

「しゃあっ!」


 肉というものを条件にして、俺はやる気が起きた。

 だが、魔力制御も忘れずにする時間がもう無く、魔力の使いすぎで目が眩んだ。


「どらごん!」


 マルカートが離れてきて、回復魔法をかけてくれた。だが魔力の問題なため解決することはない。

 彼らには申し訳ないが、少しの間魔力を解放しよう。


「ねえ、聞いて!」

「わっ、何?」

「今まで魔力を制御してたんだけどそれの限界が来て今から解放するから……カイとかを……遠く……に」

「わかったが……おい!起きろ!」

「ぐっ……」

「カイィィィィィ!?」


 急激に意識が遠退き、俺は抵抗することもなく目をつむった。

 薄い視界の中で、カイはやはり力無く倒れ、モンスターの気配も一気に小さくなった。


 どうか、怖がられませんように……



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