第2話 着陸
ロケットが飛んだ
わたあめのような白雲を越えて、炎をまとって大気圏を突き抜けた
そうして表れた藍の景色
一人孤独に藍に浮かぶ
目の前にはあまめく星々の中、一際きらめく一人の星”少女”
少女の背後に太陽が、そのため少女は後光を放ち、特有の神聖さを醸し出していた
(”少女”が神として崇められるのがよく分かる)
長いまつ毛
端正な顔立ち
透き通った純白の肌
淡い黄金色をまとった絹のような髪
身体を丸め、球体ポーズをしている
その姿は彼女が眠りこけているためだ
”少女”が神として崇められるのは、こうした美しさもあるのかもしれない
まじかで見ると、その美しさを実感させられる
そして、今からあの天体に、あの少女の肌に触れるのだ
動悸がほと走る
不安なのか、それとも恋心か
それは行ってみてみないと分からない
近づく距離
遠のく地球
それとともに動悸が速く、繊細になる
「残り距離、3,000km。着陸姿勢を作ってください」
オペレーターの通信が入る
速度パラメーターは、秒速7kmの針を指していた
あと大体、7分程度で着陸か…
基本的に、ロケットの操作は自動で行われる
僅か0,001の誤差であっても、それは高速で飛ぶロケットにおいては大きな誤差となる
そんな繊細さ、緻密性を生身の人間が行えるはずがないので、自動で処理されているようになっているのだ
ロケットに乗る宇宙飛行士の仕事は、繊細な仕事は機械に任せて、あとは基本方針を機械に伝えるだけでよいのだ
まあ、その基本方針も地球にいる司令部が判断することではあるので、宇宙飛行士はロケットを操縦しなくても、宇宙に行けるようになっている
じゃあ、なぜ人間がロケットに乗る必要があるのか…だって?
そんなの、肩書のためだよ
「人類初」少女に行きましたというのは、インパクトがあるだろ?
それに、あえて人という無駄な部品をロケットに乗せることで、祖国の技術力の高さを知らしめるという目的もある
ロケットというのは重量制限にシビアで、重くなるほど打ち上げする難易度が難しくなる
もしかしたら、小さな僕が選ばれたのはこうした背景があるからなのかもしれない
ただし、宇宙飛行士がまったく必要じゃないというわけではなく
例えばロケットの機器が壊れた場合の操縦や、修理は人間が行う
基本的には機械任せだが、トラブルが発生したときは人間が行う
それがロケット操縦の基本方針だ
僕は着陸姿勢のボタンをONにする
機械は自動的に横噴射を行って、足を少女に向けるよう姿勢を調節しながら、逆噴射を行って速度を弱めてく
速度パラメーターは弧を描いて左にふれ始め
オペレーターが言う距離の値も、「500」「400」と値を狭めていく
狙いは少女の胸に当たる場所
司令部が着陸するうえで最も平坦で安全な場所と判断されたからだ
あれ、なんでだろう
足のすくみが途端に消えた
距離が近づいて、もっと緊張するかと思った
だが、あれだけ脈打っていた鼓動も、不安もいつしか消えて、冷静さだけが僕の心に残された
(ああ、本当に来たんだ ”
トスン…と、腑抜けた衝撃がくる
「やりました。着陸です!着陸です!」
オペレーターが叫ぶ、その音声の背後では司令部で騒いでいる人々の歓喜が聞こえてくる
おそらく、生中継で見ている国民、世界中の人々も同じ反応だろう
この瞬間に、人類の中で僕ほど冷静な人はいない
しかも当の本人であるにもかかわらず…だ
その理由、なんなく今までの緊張の琴が切れたというか、反動したというか
思ったよりも大したことがないというか、くだらないというか
非現実的にもほどがある現実に、僕は現に非現実を受け止められなかった
惑星少女 ムネヤケ @muneyake
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