第27話

大いに盛り上がっている会場を抜け、静な場所に来た。


「夜の会社は怖いくらい静かね……」


中学の時に読んだ怪談話がふと頭をよぎる。窓際に立つと、自分の後ろに知らない誰かが立っているという場面。


「いないわよね」


ミステリーや怪談話は好きなくせに、怖がりな私。ここに来たのは不正解だったかも。


「考えちゃだめ、目の前には綺麗な夜景が広がっているんだから、それを見るのよ」


手にはおいしそうなお料理とお酒がある。一人でパーティーをしていると思えば、ここは怖い場所じゃなくなる。


「いただきます」


一口お酒を飲んで、夜景に目をやると、私の背後に人が映っていた。


「きゃあああああ」


叫んでみたけど、その声は響くどころか、かすれてしまい声として出ていなかった。本当の恐怖の時は、声がでないものらしい。

さらに私は、腰を抜かしてしまって、身体の何処にも力が入らず、逃げることも出来なかった。


「ご、ごめん! 俺だ、驚かすつもりはなかったんだ、本当にごめん。大丈夫か?」

「こ、怖かった……」


信じられない、暗いところで突然声もかけないで現れるなんて。怖すぎて涙も出ない。


「ごめん、本当に悪かった」


良かった。生きている人間で良かった。持っていたグラスが小刻みに震えていた。

部長がグラスを私の手から離して、持ってくれた。


「すみません」

「いや、悪いのは俺だから」


ここから見える夜景が綺麗だったのに、これからは幽霊を探しそうな気がする。


「落ち着いた?」


私は頷いた。


「特等席だね。夜にここへ来たのは初めてだけど、夜景がキレイだ」

「はい」


もう、気持ちよく夜景を見る気になんてなれない。窓の向こうを見るよりも、フロアの中に誰かいないか探してしまう。これも全部、部長のせいだ。


「料理はこれだけしか持ってこなかったのか? もっと沢山あっただろう?」

「……」


私は人がいたら食事が出来ない。

いつも自分で食事を作っているし、外食もしないから、こういう機会に出されるお料理を食べるのが楽しみだった。

部長が来なければ、このお皿のお料理は私のお腹に入っていったのに、もう食べられない。

幽霊といい、お料理といい、部長は私の邪魔ばかりする。


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