第19話 アスラ!伯爵夫妻に秘密を話す!
冒険者ギルドから帰った日の夜、僕はお父様とお母様に居間に呼ばれた。
「アスラちゃん。ちょっと聞いておきたいことがあるんだけど。」
「なんですか?」
「もしかして、アスラちゃんは黒龍への復讐を考えたりしてるのかな?」
「どうしてですか?」
すると、お父様が話してきた。
「正直に言おう。カレンに聞いたんだよ。お前、学校でも実力を隠しているそうじゃないか。もしかして、私達にも何か隠しているのか?」
「・・・・」
何と答えていいかわからない。世界中のほとんどの人間は魔法を使えない。使えたとしても初歩的な魔法だけだ。その初歩的な魔法ですら使えれば宮廷魔術師として敬われる。なのに、僕は魔法を使わなくてもSランク冒険者よりも強い。さらに、信じられないような魔法が使えるともなれば、どんなことになるかわからない。でも、お父様とお母様には嘘が言えない。言いたくないのだ。
「アスラちゃん。正直に話してくれる?私達は何があってもあなたの味方よ。だって、あなたの父であり母なんですから。」
お母様の言葉に胸が熱くなった。
“リン。どうしよう?”
“この人達は信じてもいいんじゃないかしら。私は信じたいわ!”
そして、僕は覚悟を決めた。
「わかりました。すべてを話します。」
お父様とお母様が緊張した様子でお互いの顔を見た。
「実は、お父様やお母様に隠れて訓練をしていました。」
「訓練?どこでだ?アスラが訓練しているところなんて見たことないぞ!」
「そうですね。ロッテンシティーの郊外の森に行ってましたから。」
「ロッテンシティー?どういうことなの?」
「どういうことだ?アスラ。ロッテンシティーまでは馬車で3日はかかるんだぞ!」
「説明しますので、二人とも僕の近くに来てもらえますか?」
お父様とお母様が僕の傍に来た。僕はいつものようにロッテンシティーの森の前まで転移した。2人にとっては初めての転移魔法だ。お父様もお母様も目を大きく見開いて驚いている。
「こ、こ、これは一体?」
「転移魔法です。」
「転移魔法?!」
「転移魔法って!ウイリアム!どうなってるの?」
二人はかなり動揺しているようだ。
「アスラ!お前は転移魔法がどういうものか知っているのか?確かに2000年前の人族は今と違って魔法が使えたようだ。だが、転移魔法を使えたという記録はないんだ!転移魔法は神の魔法ともいわれる伝説の魔法なんだぞ!」
「そうなんですか?でも、僕には使えるんです。それ以外の魔法もですけど。」
上空に手をかざした。そして、上空に向かって魔法を放った。
「夜空を照らせ!『ファイアーバースト』」
すると、僕の手から巨大な火の玉が放たれ、空高く上がったところで爆発した。まるで夜空に花が咲いたようにきれいだった。お父様もお母様も口を開けたままだ。
「わかっていただけましたか?」
「ウイリアム!どういうことなの?これって夢なの?」
「夢なんかじゃないさ!こうして現実に私達が経験しているんだからな。」
僕は再び王都の屋敷に転移した。しばらく沈黙が続いたが、その沈黙を破ってお母様が話しかけてきた。
「アスラちゃん。いつからなの?いつから魔法が使えたの?」
「ホフマン家に来てからです。」
「そうなの?でもどうして黙っていたの!」
「心配をかけたくなかったので。黙っていてすみませんでした。」
すると頭を抱え込むようにしていたお父様が真剣な顔で言ってきた。
「このことは絶対に秘密だ。アスラ!人前では魔法は使うな!いいな!」
「ウイリアム!どうして?魔法が使えるなんてすごいじゃない!」
「『黒龍が眠りから覚める時、恐ろしき魔王が復活する。』という伝説があるんだよ。アスラのことが人々に知られたら、魔王として討伐対象にされるかもしれないんだぞ!」
「そんなこと絶対に許さないわ!こんなに優しいアスラちゃんが魔王であるはずがないじゃない!」
「人は未知なるものに怯え、恐怖するんだ。アスラのその力を知ったら間違いなく魔王にされるだろうな。」
「そんな~。」
「わかりました。お父様。僕は人前では絶対に魔法は使いません。それに、実力も見せないようにします。」
「そうだな。だが、カレンのような一流の冒険者や、騎士団長のような者達には隠しきれないだろうな。」
すると、お母様が泣きそうな顔で言ってきた。
「私は心配なのよ。アスラちゃんが黒龍と戦って殺されるんじゃないかって!」
「大丈夫ですよ。お母様。黒龍に勝てる力が付くまでは、戦いを挑もうとは思いませんから。それに黒龍がどこにいるかも知りませんし。」
「約束よ。」
「はい。」
自分の部屋に戻るとリンが話しかけてきた。
“アスラはあの夫婦に本当に愛されているのね。”
“僕もそう思うよ。だからこそ、迷惑をかけちゃいけないんだ。”
“もしアスラのことがばれた時はどうするの?”
“そうならないようにするさ。”
“だからもしもばれた時よ。”
“迷惑が掛からないようにこの家を出て行くしかないだろ!”
“そうなのね。私はアスラがこの家にずっといてくれた方が楽なんだけどね。”
“どういう意味だ?”
“そのままの意味よ。”
それから1週間ほどたった日、僕達の担任になったカレン先生から宿泊演習の日程が発表された。1週間後に王都の郊外にある初心者向けダンジョンに行くようだ。ダンジョンは5階層までしかない。それを5日間かけて踏破するのだ。
「ダンジョンか~。なんか楽しそうね。」
するとシュバルツが言った。
「マリアは王女だろ?王城から許可は出るのか?」
「何言ってるのよ!私はもう子どもじゃないわよ!反対されたって行くに決まってるでしょ!」
「私はマリアさんと違って大丈夫よ。男爵家だし、次女だからね。それより、あなた達こそ大丈夫なの?」
「俺達なら大丈夫さ。なっ!アスラ!マイケル!」
「そうだね。」
「僕も大丈夫さ。それよりマリアもシャリーも本当にダンジョンに行くの?」
「どういう意味よ!」
するとシュバルツが小声で囁いた。
「お前達、ダンジョンに行くんだぜ!ダンジョンの中には、お風呂もなければトイレもないんだぜ!本当に大丈夫なのか?」
シュバルツの言葉を聞いてマリアとシャリーが焦り始めた。
「シャリー!どうするのよ!お風呂もトイレもないのよ!」
「私は気にならないもん。マリアさんはお気の毒ね。」
「もう、なんでよ~。勘弁してよね~。」
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