第193話 死神
「もう大丈夫よ、数はこれ以上広がらないようにしたわ。歩けそうかしら?」
「ああ、助かったぜ、にしても魔族にもこんな優しい奴もいるんだな。イメージが変わったぜ。」
「そう言ってもらえると嬉しいわ、まあ、みんながみんな同じでないように、いろいろな人がいるってところね。」
「アーちゃん!こっちも応急手当はできたよ!みんな動けそうだから、コリントスまで護衛していこう!」
「そうね、クロウを呼んでくるわ。」
スタッ、スタッ。
アーシェがクロウのもとに向かうと、
「あら、この人は眠ってしまったのね。」
「ああ、少し俺と話してたけど体の負担が大きかったんだろう。息はしてるし、町までは俺が担いで行くよ。」
「何か良い情報は手に入った?」
「……まあ、少し聞けたことはある。けど、その分確認しないといけないことが出来た。コリントスのギルド長に話がしたい。」
「そうね、この人たちを連れていけば話くらいは聞いてくれると思うわ。私たちにも、ちゃんと話すのよ。」
「ああ、もちろんだ。」
スタッ、スタッ。
3人が巨人族を連れて、町に戻ろうとするとノエルが向かいから歩いてくる。
「おう、ノエル。」
「クロウガルト、すまなかった。冷静になれていなかったよ。その人運ぶの、僕にも手伝わせてくれ。」
「ああ、頼む。」
ガシッ。
クロウとノエルで1人の男を背負い、町まで歩いた。
数十分歩いたところで、コリントスまでたどり着く。
「ありがとうな、俺たちを助けてくれて。担いでくれてるそいつは俺たちが病院まで連れて行く、ギルドへの説明は俺がするぜ。」
「ありがとう、それじゃあ私たちとギルドまでお願い。」
「まだこの町にいるんだろ?お礼がしたい、何か希望はあるか?」
「希望か……じゃあ!この町の名物を食べたい!エリュシオンのごはんまだ食べたことないからさ、大盛りでお願い!!」
「それでいいのか?分かった、日が暮れたらギルドに行くから待っててくれ。」
スタッ、スタッ。
男たちと別れ、レイヴァーと1人の巨人族の男はギルドに入る。
キィーッ。
「戻りました、ギルド長。」
「遅かったな、それで、あいつは捕まえたのか?」
「はい、けど俺たちの力じゃありません、彼らが助けてくれたおかげでなんとかなりました。」
「ということは、やはり様子がおかしかったか?」
ズザッ!
クロウがギルド長の前に割って入る。
「その件について、俺たちも知りたいことがある。少し時間をくれないか?」
「人助けは依頼したが、俺たちの問題にまで首を突っ込まないで欲しいんだがーー。」
「俺たちがミラ・アトラースと知り合いだとしてもか。」
「っ!?……。」
ギルド長の目がかっ開かれ、少し考え込む。
少し間を空けたのち、
「分かった、お前達にも我々が保持してる情報を共有しよう。そっちも、知ってることがあったら教えてくれ。」
「分かった、場所を変えるか?」
「そうだな、2階に来てくれ。」
ザッ、ザッ、ザッ。
レイヴァーはギルド長の部屋に案内される。
「座ってくれ、君たちはアテナイのクランだったよな。」
「ああ、レイヴァーとしてここ数ヶ月活動してる。この前まではテーベにいたから、アテナイから少し離れてるけどな。」
「エルフのテーベにまで足を伸ばしてるとは、かなり物好きなクランのようだな。」
「それで、クロウの言ってたミラについてあなた達は何か知ってるの?」
その名を出すた時、心なしか顔が怒りで歪んだ気がした。
「ああ、エリュシオンであいつを知らない奴はいない、アトラース家の末裔だからな。」
「僕たちは、アトラース家についてあまり知らないんだ、ミラさんについて教えてもらえるかい?」
「それは構わない。ただ、その前になぜお前たちがアトラースの末裔と知り合いなのか先に聞かせてもらえるか。」
「そんな難しいことじゃねえよ、ミラとはアテナイで会ったんだ。モンスターと戦ってて、危なかったところを2回も助けられた。あいつは、俺たち4人よりもさらに強い。」
スッ。
男は頭を抱える。
ミラのことを聞いた瞬間から、様子があまりにもおかしい。
「何か問題があるのかい?僕たちがミラさんと知り合いなのが。」
「当たり前だ!アトラースが生きてる、それも他の国で生きてるとなればこちらも黙ってはいられない!」
「どういうこと、彼女が生きてることがそんなにいけないの?多くの命を救ってる彼女が、責められる理由が分からないわ。」
「命を救ってる?はっ、笑わせるな!あいつはな、あいつは!」
ギリッ。
ギルド長は悔しそうに歯に力を込める。
「あいつは、死神なんだ。俺たちの仲間が、あいつに何人殺されたか分からん!」
「はぁ!?何言ってんだよ、ミラが人殺ししてるだと?俺たちには到底信じられない話だな、詳しく聞かせろ。」
「まだ分からねえか!あいつは、ただの同胞殺しのクズ野郎ーー。」
「だから、私たちに理由を教えなさいって言ってるのよ!命の恩人を貶されて、黙ってるほど私たちも優しくないわ。」
ミラは、いったい何者なのか。
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