第71話 彼女の意思

スタッ、スタッ、スタッ。

レイヴァーの3人はクロウが起きたことを伝えるため、ギルドに向かっていた。


宿屋のオーナーも、クロウが生きていたことを涙ながらに喜んでくれており、夕飯は宴をする準備をしてくれるとまで。


「宴か、この町に来てから初めてだな。たくさん食べれば、その分早く動けるようになるんだよな、アーシェ?」

「もちろんよ、オーナーさんのご飯はとても美味しいからなおのこと早く治るわね。」

「うーん、美味しいのは間違い無いんだけど回復が早いのは2人が異常なだけな気がするな……。」

「まあ、アーシェみたいにバカみたいに食えるほどじゃないから、俺は適応外かなーー。」

「あ??」


シュッ。

アーシェの目がいつも通り鋭くなる。


「ほら!2人ともふざけてないで早くギルド行くよ!クロくんも、もう少しアーちゃんを理解しないとね!」

「とりあえず、後であなたを冷凍にする準備しておくわね。」

「怖い!そんなこと言われたら宴楽しめない!」


いつもの雰囲気で3人はギルドのドアを開ける。


キィーッ。

「おう、いらっしゃい……クロウ!起きたのか!」

「ああ、心配かけたな、ダイカン。何とか戻って来れた。」

「そうか、良かった。なら、奥にいるリィンにも顔を見せてやれ、あいつも心配してたからよ。」

「わかった。」



タッ、タッ、タッ。

クロウは、受付で仕事をしているリィンの元による。


「ここと、ここが事件起きたってことは、この町にも警告しておいて……。」


リィンは地図を広げ、ぶつぶつ呟きながら何かを書いていた。



「リィン?」

「ん?あ、いらっしゃいませ!今準備しますねーー。」


スッ。

顔を上げると、そこにはクロウの姿が。



「っ!?……ク、クロウ、さん。」

「おう、おはよう。リィン。」

「……。」


リィンは顔を伏せ、手に拳を作り体を震わせながら感情を押し殺し耐える。


「ど、どうした?」

「い、いえ、ちょっと動揺してしまって。」


スッ。

再び顔をあげ、


「おはようございます、クロウさん。良かった、生きててくれて。」

「いろいろ心配かけたな、悪い。」

「いえ、レイヴァーの皆さんが無事生きててもらえてるだけで、私たちは大満足です。」

「ありがとうな。」


ニコッ。

2人は微笑み合う。


「そうだ、クロウさん。少し顔近づけてください。」

「ん?なんだ?」


スッ。

クロウがリィンに顔を寄せると、


「少し、我慢してくださいね。」

「え、何をーー。」


ガンッ!

リィンの勢いある頭突きが、クロウのおでこを捉える。


「痛っ!なんで!?」

「無事生きててくれたことには、心から感謝しています。……ですが!生きるか死ぬかの瀬戸際まで戦ってたことは許しません!」

「ええっ!?さっきまでそんな雰囲気出してなかったのに!?」


クロウは豆鉄砲を食らった鳩のような顔をする。


「あたし昔から言ってますよね!

「あ、ああ。」

「意味ちゃんとわかってますか!無理は途中でやめればまたやり直せます、けど、無茶したらその先にあるのは破滅だけなんです!破滅してしまったら、クロウさんがクロウさんじゃなくなる、そんな姿、あたしは絶対見たくない!」


リィンの大きな声がギルドに響き渡る。


「……リィンの言う通りだ、俺は今回無茶をしてしまった、それは心から謝る。すまなかった。」

「まあ、起きてしまったことは仕方がありませんし、あたしももう責めさせん。けど、約束してください、これから先は何かをするにも相談してください。あたしが、皆さんを導ける存在になりますから。」

「ああ……んっ?それって、どう言う意味だ?」

「あ、そうだ、クロくんにはまだ言ってなかったね。」


スタッ、スタッ。

アーシェとサリアが近寄ってくる。


「何のことだ?」

「リィンがね、私たちの軍師になってくれるらしいの。」

「軍師?ってことは、俺たちと一緒に動くのか?」

「正確には、一緒に戦いに行ったりはまだあまりできないと思います。けど、皆さんを助けられることは他にもあると思って考えました。それが、今あたしのやりたいことです。」


リィンは堂々とした姿で言い放つ。


「それは助かるけど、いいのか?お前だってギルドの仕事があるだろうし。」

「確かに間違いないですが、あたしもレイヴァーの力になりたいんです。もう、守られるだけの存在にはなりたくない。」

「リィン……分かったわ。私たちはとても助かるからぜひお願いしたいわ。」

「それじゃあさ、リィンちゃんもレイヴァーに入る??」


ドクンッ!

リィンの心臓が大きく波打つ。


「……いいえ、まだ待ってもらえませんか?」

「そうよね、分かったわ……まだ?」

「はい、あたしもぜひ参加させて欲しいです。……けど、それはこのギルドを任せられる人ができた時に皆さんをバックアップできる仲間として入れさせてください。それまで、あたしもさらに力をつけておきますから!」

「さすが、リィンはすごいな。未来のことも考えられる、こういう奴がいいお嫁さんになるんだろな。」


スッ。

アーシェ、サリア、リィンがクロウを見つめる。


「ん?どうかしたか?」

「クロウくん、そんなこと言えるんだ。」

「ク、クロウさん……。」


リィンの顔がみるみる赤くなる。


「はあ、あなたのバカさは折り紙付きね。」

「何が?何があったんだ?」


クロウが頭にハテナを浮かべていると、


スタッ、スタッ。

ダイカンが遠くから歩いてくる。


「なあ、レイヴァー、ノエルランスのことはどうする?」

「ダイカン、何か知ってるのか?」

「知ってるってほどじゃないが、伝言は受けてるぞ。」

「伝言?何かしら?」


ダイカンは全員の前に立つ。


「情報を集めてくる、少し待っててくれないか。」


彼の言葉の意味は。



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