第8話 子ども部屋の二人

ケイをベッドに押し倒し、息ができないくらい何度もキスをする。

最初は驚いていたケイだが、すぐにいつものケイになっていった。

俺の頭や首筋に腕をからませ、なでてくる。



服を脱がし、後ろ向きにさせて、体をなでた。


「あっ……」


これからのことを予感したケイは簡単に甘い声を出した。

ケイの、呼吸で上下する体、体温が俺の冷え切った心を癒してくれるのがわかった。

今までも、そうしてくれていたのだ。



……

………



「お兄ちゃん……気持ち良かった?」


「ごめんね……ちょっと、急にムラムラしちゃって……」


ケイが抱きついてきた。


「俺は、いつでもいいから……」


俺はケイを抱きしめたが、キスはしなかった。



♢♢♢



それからというもの、俺は性欲が湧き上がったらケイの体で処理するようになった。

キスも、前戯もしない。



「ごめんね。学校が忙しくて、時間があまりとれないから」


「ううん。勉強、頑張ってね」



ケイは嫌がらなかったし、拒絶もしなかった。

ちゃんと毎回、俺が悦び、興奮するように丁寧にしてくれた。


ただ、目つきは受験勉強を始めた頃の、あの従順なケイに戻っていた。



♢♢♢



大学に入学し、一人暮らしを始めた。


ケイのいない部屋だ。


寂しくなかった。


俺は自由になった、あの監獄子ども部屋から。


部屋に、家族を入れることはしなかった。


ここは、初めての俺だけの空間なんだ。




その後、俺は予定通り官僚になった。


そして、仕事で知り合った一人の女性を好きになった。


彼女は難民支援で危険な地域を飛び回っていた。

頭が良くて、ユーモアがあって、いつも世界の平和について考えていた。


母たちのように、男がいないと生きていけない女ではない。



俺は何度もアプローチしたが、毎回断られた。

危険な地域を回るのでいつ死ぬかわからない、すでに40歳を過ぎていて、子どもは難しいし、と言う。



そんなのどうでも良かった。


俺は彼女となら一緒に死んでもいい。

子どもがほしいから結婚したいんじゃない。

その生き方に惚れたのだ。


結婚しなくても側にいさせてほしいと言ったら、「それじゃ貴方の体裁が悪いわね」と言って結婚してくれた。




結婚して一年を過ぎる頃、彼女から不妊治療をしたいと言われた。

俺と子どもがほしいと思ってくれたのだ。

彼女の変化が嬉しかった。




育休で日本に滞在していると、ケイから連絡が来た。

少し不安だったが、けじめをつけなければならない。

全て、俺が悪かったのだ。


ケイは、証券会社の営業マンになっていた。

似合っていると思う。

良い上司に恵まれて、やれるだけやってみたいという。


ケイは、いつの間にか男らしくなっていた。

俺も口座を開き、何人か知り合いに顔をつないだ。




俺の罪は、妻の高潔な魂と、ケイの不思議な縁によって許された。


あの子ども部屋は、今は物置になっている。




-完-

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子ども部屋の二人 千織 @katokaikou

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