第1話
傭兵、死神、殺し屋の男―――セトは軍の特殊部隊との戦いで胴を負傷し、国が街ごと破壊するために放った小型誘導ミサイルによって亡くなった。
死体はぐちゃぐちゃで、酷い有様だったという。爆心地にいながら原型をとどめていたのは本人の頑丈な体ゆえだろうか。セトの腹へ長刀を刺した若い男は最も爆心地から遠い場所にあった右腕のみが見つかったという。
ともかく、このようにしてセトは命を落とす。
しかし彼の物語はここで終わらなかった。
◇◆◇
「―――ッ!」
目が覚めた。そして直後に気を失う直前の橙色の閃光を思い出す。
「痛ッッッ...たくない...。」
思考を巡らせる。
おそらくあれは誘導型の小型ミサイル。俺を刺したあのクソや街ごと俺を殺そうとしたらしい。
しかし、どういうことだ。
まだ俺には意識がある。
長刀が刺さったはずの腹をさすろうと下を見ると、向こう側が透けて見えた。半透明になっている。
「なるほど、死んだみたいだな...。流石にミサイルは無理か。」
つまり、ここは死後の世界か。
◇◆◇
周囲を見渡す。夕暮れどきの世界に灰色のあぜ道が一本、永遠に続いているように見える。道の上には無数の影のような存在が列をなして進んでいる。
“影”は俺と同じように亡くなった魂のようだ。
話し声も足音もない。
圧倒的な静寂がこの道を支配している。
背後を見ると誰もいない。どうやら亡くなった順の列らしい。
「おい、この道の先は冥界か?」
「...さあ...?」
前の影がボソボソと答えた。
列に加わる気はない。俺は道の端へと目を向ける。ざわ、とくすんだ色の葉が、紫の草や暗色の花が風に合わせて揺れる。
続いて前方を見てみる。
無数の影が視線も動かさず、ただ前へと進む姿が妙に不気味だ。
『皆さん、お疲れ様です。そのまま前方へまっすぐどうぞ。冥界への一本道となっております。』
突然、空に安っぽい音質の声が響いた。放送だろうか。
『歩くのをやめるのは後方の方の迷惑となりますので控えてください。』
放送に歩くことを促され、前方の影が少しスピードを上げた。
「...こいつら、これが希望への道だとでも思ってるのか?」
俺の呟きは静かな道に響く。
しかし不気味なほど誰も反応しない。
「自らの足で死へ歩いていくよりは、俺は少しでも可能性の高い方へ賭ける。」
俺は道から外れ、奇怪な色の草むらへと足を踏み入れた。
ざわ...
『最後尾のあなた。一本道から外れるのはおやめになった方がいいですよ。』
「お、忠告ありがとう。」
放送からの注意。
そして足元がざわつき、道へ引き戻すような力を感じる。
だが、それに反抗し、意に介さず進む。
◇◆◇
何分、何時間、いや何日経っただろう。
『もう3日は歩き続けていますね。』
放送の丁寧な補足に、思わず俺は頭を掻きむしる。
気が狂いそうな程に一切変わらない風景、気持ち悪い色をした木々の葉をかき分けて進む。
『やめた方がいいとは言いましたよ。一本道を逸れる阿呆は今までごまんといましたが大抵はあの放送で戻ります。』
「ハッ。根性なしじゃねえか。」
数日間、この調子で放送は俺に話しかけてくる。おそらく魂を管理する上位存在なのだろうが、敵意が感じず干渉もしてこない。ただ話しかけてくるだけだ。
『ここまできたのは100人もいませんね。』
「意外といるな。」
放送の話を軽く流しながら目の前に降りてきた桃色の葉を振り払い、さらに前へ進む。
『あなたの世界で、今までに生まれ死んでいった人は何百億人いると思っているんですか。その中での100人です。』
「そーかい。」
『あなたには資格があります。ここを脱出する資格が。』
「...詳しく言え。」
長い時間にようやく終わりが来そうである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます