第7話 光の粒、岬にて
雑踏の中にいる。お面を被った幼子、浴衣の少女、たこ焼きを頬張るおじさん。提灯の明かりに煌めくラムネの瓶。下駄の音を弾ませる石畳。
俺はあいつの背を探している。幾度となく気安く触れたあの背中を。
今は遠いあいつの後ろ姿を。
「あっ立花くんだ!立花くーん!おーい!」
ちびっ子のように駆けてきたのは成瀬だった。隣には花のような少女。うちのクラスの及川真奈美か。ってえええ、まじか、意外すぎる。こほん、ここは冷静に、
「仲のおよろしいことで」
「立花くん、あたしたちが付き合ってるって知らなかったでしょ。」
相変わらず鋭い奴め。
「隠してただろ」
「いや、けっこうおおっぴらにしてたけどなー。ま、立花ってうちのクラスにあんま興味ないもんね。あたし知ってるもん、喋っててもさぁ、廊下の窓そわそわ見てばっかりで。あれ誰を、」
真奈美はそこで言葉を止めた。
俺の顔をまじまじと見る。
「……なんなの、立花。そんな切なげな顔しないでよ」
俺は成瀬のほうをちらりと見た。
「真奈美、行こうか」
「え、もういいの?立花そういや一人だよね、一緒に」
「立花くんにはね、きっと待ち人がいるんだよ」
「あっ……なーるほど。うふふ、楽しんでねー!」
成瀬の協力に感謝。何も知らないはずだが、念力は通じるものだな。真奈美もある意味察しがいい。末永くお幸せに。
人探しというのは心もとないものだ。こういった雑踏の中だと、余計にその行為の孤独さが際立つ。
全て俺の独り相撲なんじゃないか。そう何度も思った。
でも、どうしても止められなかった。
そして俺は見つけた――あいつの背中を。
飄々とした足取りで祭のはずれの、暗がりに伸びる階段を上がっていくのを。
弾かれたように後を追う。
黒々とした木の影が逆さになってさわさわと階段に落ちている中を駆け上がる。
あいつの背中は遠ざかっていく――明晰夢のように。
待って、なんて言えない。どんな掛け声もふさわしくないように思えたから、俺はただ階段を二段飛ばしで踏み越えていった。
突然視界が開けた。石畳が途切れて、土の地面に転びそうになる。
目を潰すような星空、フェンス、東屋、その先の岬。眼下にちらちらと祭の光が瞬いている。
それは後で回想したときの全体の映像だ。その時の俺は、岬に伸びる碧色の後ろ姿しか見えていなかった。
「横峯」
奴はゆっくりと振り向く。
「……立花か。久しぶりだね」
激しい運動の後、やっと息が整ってきたというのに、俺の息はまた僅かに乱れた。
「よく気づいたね。暗い場所だったのに」
「まあな」
賑やかさを外から眺めるのがお前の好きなことであることは知ってるからな。以前の俺なら気安くそう言っただろう。
「……悪かった」
「なにが?君が謝ることなんて何一つないのに」
「タイムループ。……してるだろ」
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