第7話:魔女様の能力値
部屋に残っていたのは、おれとドッズと魔女様の三人だった。
正に固唾を飲む状況だ。
おれもドッズも身を乗り出し、魔女様の測定結果が表示されるのを待っていた。
そして――。
ギフト欄には【
しかし、それより直感的に驚異に感じたのはその能力値の方で……。
筋 力 84
耐久力 78
知 能 124
精神力 110
敏捷性 75
器用さ 88
魅 力 156
生命力 475
知覚力 92
意志力 158
心身評価 1440
光属性魔力 738
闇属性魔力 237
火属性魔力 1998
水属性魔力 73
土属性魔力 125
風属性魔力 82
時間属性魔力 75
空間属性魔力 75
魔力操作 539
魔力耐性 445
魔力評価 4387
これは……人造ホムンクルス疑惑があるおれを除くと、完全に人類を超越した能力値だと感じた。
今までの最高峰は大先生だったが、正直それが霞んで見えてしまう程の数値だ。
「えーっと……え?これって、なんだか凄い測定結果に見えますけど、ドッズ?魔女様の能力値がどれくらい凄いのか説明出来ますか?」
おれが話し掛けた時、ドッズはまだ石板の測定結果を喰い入る様に見詰めていたが、ゆっくりと顔を上げおれの方へ向いてくれた。
是非とも比較的一般人である彼の評価を聞いてみたい。
「いやあ、これはちょっと……俺も何がなんだか。そりゃ大先生とサイラスの二人を相手に圧勝出来てしまう訳だ。これは恐らく……単独で魔女様に勝てる者はこの世に存在せんだろうよ。この状態で強力な魔導具と魂魄結紮なんてしようものなら、個人で国の一つや二つ簡単に滅ぼせてしまうのでは無いだろうか」
要するに見識の広いドッズを以ってしても訳の分からない強さという事か。
この能力値があるからこそ、大先生に対して大見得も切れるし国家を相手に宣戦布告も出来てしまう訳だ。
「――リョウスケ?白夜のヤツの時空間魔力はどの程度あったんだい?」
おれとしたことが魔女様から問われて漸く時空間魔力の能力値が目に入った。
その他が凄すぎて印象が薄かった訳だが。
「確か双方とも25くらいだったと思います。今まで他の人たちは10前後で、魔女様が75という事は、やはり時空間魔力は生きてる長さに比例して数値が高くなるのでしょう」
「そうなると、リョウスケの時空間魔力は1500を超えていたから……超古代に造られてその辺の遺跡に封印されていた、かも知れないね?つまり結局お前は超古代の魔法文明が造りしホムンクルスなのでは?って事なんだけど。これ以外に何か別の可能性は見出せるかい?」
魔女様がその件に対して固執するのは単なる知的欲求を埋める為なのだろうか?
彼女は差別主義者では無さそうなので、例えおれが人造ホムンクルスであったとしても扱いが変わる事は無いと思うが……。
「単純に【不朽不滅】の効果なのでは?と思う根拠があります。おれが初めて能力測定をした時はギフトは【言語理解】だけで、時空間魔力の更新も起こりませんでした。それから二日後に再度測定した際に時空間魔力の更新が起こり、新たに【不朽不滅】が追加されていたのです。魔女様が仰られる通り超古代から封印されて長期間生存に因る時空間魔力の蓄積だった場合は、初回の測定時から時空間魔力の更新が有って然るべきかと」
この説明をしつつ、これはホムンクルス説が消えたかも知れないと実感があった。
「ほう、なるほどね。お前の言う時系列通りだとしたら、その言い分は間違って無いと思う。では、その他に何か別の可能性は?お前が何者なのか、何か少しでも見出せる事があるのなら言語化してみせろ。まだ他に思うところがあるんじゃないか?」
強烈な追求だった。
今まで一番厳しい視線を向けられている。
これは知的好奇心だけでは無く、今後一緒に仕事をする上で不信さを払拭させておきたいと言う意図があるのかも知れない。
異世界の事は他言し無いと、今朝別れ際に大先生と約束を交わした所だが……これ以上秘匿する事は、魔女様との今後の関係性が崩れる可能性がある。
それに、おれにはこの偉大な魔女様を相手に嘘や偽りをつき通す自信が無かった。
「――あの、実は、前世の記憶と言うか……この世界とは別の世界で生きていた時の記憶が、おれにはあります。妄想や空想の類では無く、明確にその記憶があるのです。要するにおれは異世界から転生したか転移して、今この場にいる可能性が否定できません。この馬鹿げたギフトや能力値も、異世界を超える際に授かったのか……おれをこの世界へ引き寄せた神の如き存在が与えたのでは無いかと、かなり真剣に考えてます」
約束を反故にしてしまった事に関して、大先生にはいつか謝らなければならないだろう。
その日が来るかどうかはさて置き。
「ああ、そう言う事か。道理で師匠と雰囲気が似てる訳だ。これでやっと得心がいったよ。なあ、リョウスケ?お前さ、この世界に来てから夜空を見上げた事はあるかい?」
一転、魔女様の雰囲気は柔和となった。
ドッズはおれと同様に緊張の面持ちを浮かべていた。
「ええ、はい。この世界で意識を得た時は真夜中でしたので、夜空には綺麗な赤色と紫色の月が二つ浮かんでました。おれの世界の月は一つだけでしたので、その光景が印象強く記憶に残ってます」
それを聞いた魔女様はドッズへと顔を向けた。
「ドッズ?私たちの世界も、私たちに見える月は紫色のが一つだけだよな?」
「そうですな、夜空に浮かぶ月は昔から
ドッズの意見を聞き、魔女様は再びおれへと視線を向けた。
「リョウスケ?私の師匠……オーヴァン・ファランギスもね、夜空に赤月が見えると言っていたよ。そして酒に酔った時は決まって異世界の話をしてくれた。その当時の私は幼かったからさ、師匠が私を喜ばせようと創作の話をしてくれてるんだと思い込んでいたんだけど、これはどうやら作り話では無かったみたいだね」
「要するに、赤月が見える者は異世界からの転生者か転移者という事ですか?」
「お前から自発的に赤月の話を聞いて、私はそう確信したよ。正直、今の今まで酔っ払いの戯言だと思っていたけどね。ドッズが言う通り極稀れに赤月が見える者がいると言う伝承はあるけど、それも眉唾物だったしさ」
これはおれから自発的に赤月の話を切り出した事に価値があった。
いち早くおれと師匠オーヴァン・ファランギスとの類似性に気が付いた魔女様は、上手くそれを引き出してくれたのだ。
「その、師匠はご自身が異世界転移か転生か、把握してる様でしたか?」
「師匠はね、異世界転生をしたって言ってたよ。うろ覚えだけど、転移より転生の方が簡単だとかなんとか。魂を移すだけで良いからどうのこうのと」
「と、いう事は……今の時代にも、おれ以外に異世界転移か転生をした者がいる可能性がありますよね?赤月が見える者を探せば、いつかは巡り会えるかも知れない」
巡り会えた所で何がどうなるか今は考えようも無いが、そう言う存在が居るかもしれないと言う可能性は、ある種の寂しさから解放される感覚があり、おれは思わず涙を流してしまっていた。
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