第1章13話:海の大蛇

イカダに乗って、海を移動する。


行き先は……不明だ。


どちらの方角に、大陸があるのかわからないからだ。


ならば、テキトーに進むしかない。


ひたすら櫂をぎ続ける。


漕ぐ。


漕ぐ。


漕ぐ。


1時間。


2時間。


3時間が経つ。


すでに周囲に島はなく、四方八方、海原だけが広がっていた。


「本当に、このまま進めば、大陸に辿り着けるのでしょうか……」


と、不安が募った。


けど、振り払う。


こういうときはポジティブが大事だ。


絶対に、陸に辿り着けるのだと信じる。


信じて、漕ぎ続ける。


漕ぐ。


漕ぐ。


漕ぐ。


8時間が経った。


日が傾いてきた。


空が、オレンジ色に染まる。


「ん……」


そのとき、視線を感じた。


きょろきょろとアリスティは周囲を見回す。


「あ……」


ソイツがいた。


海から、顔を出した、巨大な白い物体。


蛇である。


顔と、首のわずか部分しか出していないにも関わらず、その巨体さが伝わってくる。


全長にすると何メートルあるのか?


想像もつかなかった。


蛇は、こちらを見つめていた。


アリスティも、蛇を見つめる。


「なるほど……こいつですか」


こいつが―――アルヴィケル。


ついに、遭遇してしまった。


しかも、アルヴィケルは、アリスティと目が合ってしまっている。


もう逃げられない。


静かに横を通り過ぎる、などといったこともできない。


でも……それでいい。


櫂をいったん手放し、強くアルヴィケルを見据える。


アリスティは、アルヴィケルと出会ったら、必ず殺すと決めていた。


「私の家族を島に追いやった元凶。そして、お父さんのかたき


父テュードは、厳密にはアルヴィケルに殺されたわけではない。


しかし島に追いやられ、大陸に帰りつくことなく亡くなってしまったのは、アルヴィケルのせいだろう。


だからアリスティは、アルヴィケルを父の仇だと認定する。


「私は、お父さんのことは、覚えてはいませんが……産んでいただいた恩があるので、仇討ちをさせていただきます」


撃退するのでも、撤退させるのでもない。


殺す。


アリスティは、殺意をにじませた。


「シャアアアアアアアアッ!!!」


アルヴィケルは叫んだ。


恐ろしい咆哮が大気を震わす。


巨大な発声器官から放たれる声は、鋭く、莫大であった。


アリスティは思わず耳をふさぐ。


咆哮を終える。


次の瞬間、アルヴィケルの口に、魔力が集中し始めた。


「……!!?」


アルヴィケルの口から放たれる巨大な魔法弾。


アリスティは回避のために、慌てて空にジャンプする。


「……! しまった!」


と、アリスティは歯噛みした。


滞空するアリスティは、遥か下の海を、苦渋の顔で見下ろす。


アルヴィケルの魔法弾によって海水が爆発したかのように盛り上がった。


その海水に混じって、木製の断片や、残骸が跳ね上がっている。


そう――――


イカダを破壊されてしまったのだ。




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