第27話ダイアンside1

「ダイアン! 貴方の妻に慣れて嬉しいわ!」

「あぁ、俺もだよ」


喜ぶアンネリアとは対照的に俺は引きつった笑みを浮かべた。なんでこんなことになってしまったんだ。


あの時に戻れるのなら戻りたい。


シャロアとの婚約が破棄されてから両親には小言を言われてばかりだ。シャロアを妻に娶り、アンネリアに愛を囁くのを望んでいた。


だが、予想外な事が起きた。


アンネリアは妻になりたいと言ってきたのだ。


面倒だなと思っていた。黙っていれば誰も気づかずに幸せになれる。けれど、アンネリアがシャロアに直接会っていたとは知らなかった。


妻に相応しいのはシャロア。


それなのにアンネリアは余計なことをしてくれた。イライラするが、俺の子が出来たと喜んでいるアンネリアを無下にはできない。


父も母も今回の事で俺のことを失望したらしい。友人たちもアンネリアが妻になったことで馬鹿にされた。


「お前、外れクジを引いたな。どんまい」


憐れむように言後やつもいた。

確かにアンネリアは過去に上位貴族の婚約を壊してきたと聞いたことがあった。


まさか俺が彼女の餌食になるなんて思ってもいなかった。

 



妊娠を切っ掛けに彼女はあっさりと仕事を辞めて我が家に転がり込んできた。


男爵も俺と結婚する事が決まり、ホッとしたと言っていた。結婚式は妊婦に負担が掛るからと最低限の物になった。


彼女はもっと派手な結婚式を挙げたいといっていたが、彼女が希望した物は上位貴族でない限りは到底無理な金額だったため何度も宥める羽目になった。


ことあるごとに散財しようとする彼女。


貴族なのだから当然でしょう?と。我が家が破綻するのが目に見えている。

あぁ、恋人気分で愛を囁いていたいのに彼女の散財が目に余り、いつも小言を口にしてしまう。


父も母も彼女には最低限しか会話しない。

それどころか事ある毎にシャロアちゃんが良かったとアンネリアの気持ちを逆撫でる始末。


毎回癇癪を起こしてその度に宥める俺の身にもなってほしい。





そして精神が削られながらも彼女の出産の時を迎えた。


流石に父や母も早めに産婆を手配して心配しているようだった。


……どういう事だろう?


半日かけてアンネリアから生まれてきた子供は浅黒い肌の黒髪の男児。


我が家も男爵家の親族にもそのような色を持つ者は居ない。これには父も母も大激怒。


我が子を見たアンネリアは「嘘よ、嘘。産婆によって取り違えが起こったのよ!!!」などと半狂乱になりながら手あたり次第物を投げて部屋は荒れていた。


アンネリアから話を聞こうとすると癇癪を起こして話にならない。


まさか、俺以外に男と通じていたなんて……。


ショックだった。信じたくなかった。


父はすぐに男爵に連絡を取り、男爵は我が家に脂汗を掻きながらやってきた。男爵の話では生まれてきた男児は旅の吟遊詩人ではないかという事だった。


いつも家にお金を入れていると話をしていたのにそれも嘘だと言う事が判明した。全てその男に貢いでいたようだ。


目の前が真っ暗になった。



アンネリアの子は死産したことにして男爵が引き取ることになった。アンネリアは出産直後から癇癪が酷く手が付けられないほどだ。それは半年を過ぎても変わらなかった。


癇癪を押さえるために好きなケーキや菓子を与えてブクブクと肥え太っていくアンネリア。


甘い物を切らすと途端に侍女に暴力を振るうようになり手が付けられなくなって短期間に何人も侍女が辞めてしまった。




俺は父に泣きつき助けを求めた。父は渋い顔をしながらお前が選んだのだ、最後まで責任を取れと、言われてあしらわれてしまった。


何度も何度も頼み込んでようやく父は重い腰を上げた。


「このままアンネリアと離婚するのであれば醜聞は避けられない。だが、一つだけ方法がある。

我が家の小さな領地に祖父の使っていた家がある。そこにアンネリアを病気の療養で住まわせる。それしかないだろう」


父の言葉に俺は飛び上がるほど喜んだ。すぐに彼女の荷物を纏め、領地に送り込んだ。彼女が居なくなった事で邸は平和になったのは言うまでもない。

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