第12話

二人は仕事の手を止めて夫人はソファへと座る。私も向かいに座って執事の出すお茶を頂くことにした。


「はい、本当なら今も私は仕事中だったのですが、体調不良で父に送られて帰ってきました」

「シャロちゃん!? そんな状態でうちに来て大丈夫なの??」


二人とも驚きを隠せないでいた。まぁ、そうよね。倒れてすぐにここに来るなんてどういう神経しているんだかって思われる。


「本当なら今日お伺いするべきではなかったのですが、何分子爵様のお休みの日でダイアンが出掛けている時間となると中々会えないので、無理をしてでも来てしまいました」


「そうか、無理をさせてすまない」

「いえ、私の方こそ突然で申し訳ありません」

「シャロちゃん、もしかして今日来たのはダイアンの事なの?」

「……はい。ダイアンは以前アンネリア嬢と仲良くなっていて夫人に注意をしてもらい、彼女と会わないと約束をしてくれたのですが、どうやらその約束は破られたようなのです」


「どういう事かしら? 貴方、その話は知っているの?」

「少しはな。同僚からお前の息子狙われているぞ、気を付けろ、と言われたな」


夫人は困惑したような不安そうな顔をしている。


「最近ダイアンは手紙や連絡も殆どなくなっていたので私も仕事が忙しいものだと思っていたんです。

夫人からも朝仕事に出掛けて夜遅くに帰ってくると言っていましたし。食堂で会えばいつもと変わらず優しく接してくれていました」


「どうして仕事じゃないと分かったの?」

「仕事で各部署を巡回している時に領地課の人が言っていたのです。最近は災害も領地争いもなく平和で定時帰りをしていると」

「そうなの!? ならどうしてダイアンは遅くに帰ってくるのかしらっ」


私はコラリー様からの忠告を思い出し、心がずんと重くなった。


「それは、侍女課に行った時に知り合いから忠告を受けたのです。ダイアンがアンネリア嬢ととても親密そうにしていると。

噂ではもう男女の仲なのだとか。他の侍女達からも目撃されているようなのです」


「……そうか。まだ婚姻式までに時間がある。シャロア嬢には傷が付いてしまうが早めに婚約破棄をした方がいいだろう」

「なんてことっ。あの馬鹿っ。やっぱり相談女にしてやられたのねっ」


夫人はわっと泣き始めた。


「でも、まだ直接見た訳ではないんです。彼を信じたい気持ちもあるんです」

「シャロちゃんっ! 無理しなくていいのよ」

「ダイアンの事を信じたいと言ってくれるのか」

「はい、一度彼と話がしたいと思っています。それに今週は王宮の舞踏会があります。そこで彼がどうするのか気になっていて」

「あの女が来るということね?」


「はい。アンネリア嬢が侍女に自慢していたようです」

「体調が悪い時にすまない。明日、ダイアンに仕事が終わり次第すぐに家に戻ってくるように話をしておく」

「ありがとうございます」


「シャロア嬢は、本当にいいのかい?」

「ダイアンの事はとても好きだし、ダイアンと婚姻したいと思っています。けれど、ダイアンの心が私に無かったら婚姻しても幸せにはなれません。

支えたいと思うけれど、独りよがりでは辛すぎます。それに私は騎士ですからっ! 例え生涯一人でも食べるのに困ることはないので心配はありません」


「……シャロちゃん」

「君の考えは理解した。全てダイアンの責任だ。ダイアンのことをこんなにも思ってくれているのにな。

もし、婚約破棄になった場合はこちらとしても君の傷が少しでも軽いように取り計らうつもりだ。本当にすまない」

「いえ、私こそ申し訳ありません」


あまり長く居ては良くないと思い私は席を立った。夫人が泣きながら玄関まで見送ってくれたわ。そして一言、『あの馬鹿息子の事を思ってくれてありがとう。本当にあの子は馬鹿よね』と。


明日以降のダイアンの行動次第で婚約破棄になる。

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