第6話

翌朝、いつものように騎士団に出勤する。


第二騎士団の仕事は班に別れて王宮内を巡回する。巡回が終われば訓練場で訓練するのが主な日課。偶に治安維持のため王都内外での犯罪集団や犯罪者の掃討作戦に参加する。


「シャロア、おはよう」

「団長、おはようございます。昨日は申し訳ありませんでした」


私は出勤してすぐに団長に謝罪する。すると団長はガハハと笑っている。


「シャロア、昨日は食堂で婚約者と言い合いになったんだって?」

「……はい」

「あれから婚約者から連絡があったのか?」

「いえ、ありません」

「お前の婚約者は馬鹿だな! 婚約者どうせあの男爵令嬢を不憫だって慰め合っている頃かもな!」

「そんなに例の男爵令嬢は有名なのでしょうか……?」


私は恐る恐る団長にも聞いてみる。すると即答だった。


「あぁ! 有名だぞ! もう後がないからな。あれも必死だろうなぁ」


私が言い過ぎただけなのだろうか?

周りの人達から聞く彼女の評判にもやもやする自分がいる。


やっぱりダイアンに直接聞かなきゃいけない事よね。


とりあず私は団長と副団長に謝り、職務に就いた。巡回の時間になり、同僚のロダンとペアで王宮内の巡回していく。巡回中の私語はもちろん厳禁。

各階の廊下を歩き、王宮の中庭を巡回する。


今日も特に異常はなさそうね。


行き交う人達も不審な動きをしている人達はいない。私達は巡回も終わり、王宮入り口である玄関ホールを通り、詰所に戻ろうとした時。


ロダンが肩を叩いた。


「ロダン?」

「シッ。あれ、見ろよ。お前の婚約者じゃないのか? 昨日の今日であれか?」


ロダンの言葉に私は改めて周囲を見渡すと、居たわ。ダイアンとアンネリア嬢が。

私達は不審者を見つけた時のように何事もなく歩いて相手との距離を取り、相手から見えない位置に立った。


二人は仲良さそうに立ち話をしているようだ。暫く見ていると、アンネリア嬢がダイアンに軽くハグして何処かへ行ってしまった。


「微妙だな。仲が良さそうだが、親しいのかと言われれば決定打に欠ける感じ、か」

「……そうね。もう会わないでと周りに釘を刺されていても王宮内でばったり会う事もあるし」

「まぁ、気を落とすなよ? ただの立ち話だ」


ロダンは気を使ってくれているようだ。私も、気にしない。気にしない、ようにしないと。

心の隅でツキンと小さくトゲが刺さった痛みを無視する。


「ロダン・シャロア班只今戻りました。異常ありませんでした」

「ではいつものように巡回記録に記入をしておけ」


私達は巡回記録にルートや時間を細かく書き入れて午前中の仕事を終えた。

今から昼食。今日は覚悟を決めて食堂に向かう私。


いつもは他の騎士達と雑談をしながら歩いくし、私と婚約者の仲睦まじい姿を冷やかす同僚もいたけれど、昨日の出来事で気を使われているようだ。少し悲しいかな。


食堂にはいつものように大勢の人達がカウンター越しに料理を貰い、各自好きな席に座り食事を摂っている。


ダイアンを探したけれど、まだ食堂には来ていないみたい。


私は一人でいつもの席に座り食事を始める。いつもならもう来ているのに。仕事が長引いているのかな……。

もしかして私を避けているのかな。私の事が嫌いになったのかな。どんどん悪い方向に考えが進む。


結局この時間にダイアンが食堂に来ることは無かった。


その翌日も、またその翌日も……。


手紙を出してみたものの返事もない。


……ダイアンはどうしてしまったのだろう。



待ちに待っていたお互いの休日。

私はアルモドバル子爵邸に向かった。


私は結婚式の招待状を子爵邸でダイアンと書く事にしていたの。夫人と一緒にするお茶も楽しみにしていたわ。

子爵邸に着いてすぐに執事はサロンへと通してくれた。けれど、そこに居たのは夫人。

てっきりダイアンがいると思っていたのでとても驚いたわ。


「ごきげんよう、夫人。ダイアンはいらっしゃらないのですか?」


夫人は困惑している様子。


どうしたのかしら……。


不安になりながら聞いてみた。


「えぇ、突然誰かに呼ばれたらしくて……。いそいそと出て行ってしまったの。

シャロちゃん、ごめんなさいね。今日は結婚式の招待状をダイアンと書く予定だったのでしょう? 私が手伝うわ」


「そんな、夫人に手伝って頂くのは申し訳ないです」

「いいのよ、気にしないで? 招待状は今日書いて出さないと間に合わないでしょう? 本当にダイアンッたら何をやっているんだか……」


そして私達は招待客リストを開いて夫人とお茶をしながら招待状を書いていった。子爵の招待状でもかなりの数を出すの。


これが上位貴族だったら一日ではすまないわよね。だから上位貴族の結婚式の準備は一年も掛るのね。


私は手が引きつりそうになりながらも一筆一筆丁寧に招待状を書いていた。

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